内容説明
亡き夫との最後の夜を思い返すうち、とせはある真実に気付く(「仲秋十五日」)。出征した想い人を待ち続け尼となった香苗のもとに一人の男が現れ…(「春いくたび」)。婚家か生家か、苦渋の決断を迫られた正子が示した驚嘆の覚悟(「夫婦の城」)。女たちは降りかかる困難から逃げず、屈せず、自分らしい道を貫いた。強く生き抜く“女”をテーマに傑作五篇を収めた、感奮興起の時代小説アンソロジー!
著者等紹介
縄田一男[ナワタカズオ]
1958(昭和33)年、東京生れ。専修大学大学院文学研究科博士課程修了。歴史・時代小説を中心に文芸評論を執筆。’91(平成3)年に『時代小説の読みどころ』で中村星湖文学賞、’95年に『捕物帳の系譜』で大衆文学研究賞を受賞。著書のほか、編者を務めたアンソロジーも多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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えみ
47
恋しい、尊い、愛おしい。時代小説の巨匠たちが描いた心と意志が人を繋ぐ短編集。5篇からなる人情時代小説。無駄を削ぎ落した洗練された文章に圧倒されたのは勿論、短編でここまで情をバリエーション豊かに表現できるのだと唯々感嘆するばかり。どの話も傑作揃いだが、最初の藤沢周平『意気地なし』からガツンとやってくれる。ただの文字のはずなのに一字一句、なんてこともない会話にすら温度があって魂がこもっているというか、優しいぬくもりを感じる。読み手に伝染するその温かさは、体も心も知らず知らずのうちに柔らかく包んでくれていた。2024/11/13
優希
44
面白かったです。時代小説のアンソロジーなので読み応えがあります。自分を貫いた女性たちを主人公に描かれているので当時の女性は強かったのだなと思わされます。人情ものだからでしょうか。2023/02/11
マーブル
14
男は武士道に翻弄される。自ら望んだとしても、抗ったとしても。武に死ぬ。義に生きる。主君に従う。翻弄されるのは女も同じ。人は大きな流れの中では一枚の葉に過ぎぬ。歯を食いしばって抵抗しても、所詮は流れの中。五編の中で一番良かったのが滝口康彦の『仲秋十五日』。主君への忠。武士としての義。朋友との友情。妻子への愛情。比較できぬほどに大事な事々から受ける圧力。それを耐える背中。その指図ひとつで家来たちが命を捨てる殿様などにはわかるはずもない、下級武士の矜持と弱さ。その弱さをしっかりと受け止める女。 2021/09/14
ドナルド@灯れ松明の火
13
アンソロジは編者の力量とセンスによるところが大である。 今作は女性中心に強く生きるさまを描く。なかなか選ぶのが難しいとは思うが今一だった。2020/09/19
Ryoichi Ito
9
好短編5篇。永井路子の「お江さま屏風」が一番面白かった。浅井長政とお市(織田信長の妹)の間に生まれたお江は「父の顔も知らず,母の愛も薄く,姉たちからは余計もの扱いにされ,最初の夫と娘たちは殺され…」2度目の結婚相手は秀吉の甥・豊臣秀勝,3度目の夫は江戸幕府第2代将軍となる徳川秀忠だった。秀忠との間に生まれた家光は徳川家の正室に生まれたただ一人の将軍になった。不美人でのろま扱いされたお江は最後に姉たちに勝った。戦国,波乱万丈の女の一生。これを短編にするのはよほどの手腕だ。 2021/02/14