内容説明
好漢青江又八郎も今は四十代半ば、若かりし用心棒稼業の日々は遠い…。国元での平穏な日常を破ったのは、藩の陰の組織「嗅足組」解散を伝える密明を帯びての江戸出府だった。なつかしい女嗅足・佐知との十六年ぶりの再会も束の間、藩の秘密をめぐる暗闘に巻きこまれる。幕府隠密、藩内の黒幕、嗅足組―三つ巴の死闘の背後にある、藩存亡にかかわる秘密とは?シリーズ第四作。
著者等紹介
藤沢周平[フジサワシュウヘイ]
1927‐1997。山形県生れ。山形師範卒業後、結核を発病。上京して五年間の闘病生活をおくる。’71(昭和46)年、「溟い海」でオール読物新人賞を、’73年、「暗殺の年輪」で直木賞を受賞。時代小説作家として、武家もの、市井ものから、歴史小説、伝記小説まで幅広く活躍。『用心棒日月抄』シリーズ、『白き瓶』(吉川英治賞)、『市塵』(芸術選奨文部大臣賞)など、作品多数
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
505
【海坂藩城下町 第9回読書の集い「冬」】シリーズ四作目にして最終作。一作目の『用心棒日月抄』だけは読んだ覚えがあるのに(おのれのレビューが)見当たらぬ。それはさておき、今作のみが長編、それもあって前作を読んでおらずとも(つい口調が移る・笑)充分に楽しめる。剣術を自慢とする又八郎も四十半ば。急遽江戸への半年の任期を申し付かった先にて起きた事件。そして16年ぶりに再会した昔の女・・・深い。周平っちの魅力が全詰まり。女性が刺身のつまなのが悲しいが、時代だからなぁ。2024/01/15
yoshida
186
ついに読み終えました。藤沢周平さんの素晴らしい作品集でした。青江又八郎も四十代半ば。国元で藩に使える日々。時代も流れ嗅足組が解散となる。青江は江戸の嗅足組に解散を伝える密命を帯び、江戸へ向かう。期間は半年。懐かしい佐知との再会。しかし幕府隠密、藩内の秘事もあり再び青江は刀をとり、佐知と共に秘事を暴き、黒幕と戦う。期間が迫れば再び逢えぬ青江と佐知の哀愁。旧友細谷の落魄。青江の故郷、おそらく庄内の料理であるカラゲや醤油の実も魅力的。最後の青江と佐知のやり取りに思わずニヤリとする。藤沢作品の魅力が詰まった名作。2016/06/26
ゴンゾウ@新潮部
108
刺客から16年、平穏な暮らしを故郷で送る青江又八郎に再び江戸での密命がくだる。又八郎も佐知も老年期を迎えどことなく寂しさがただよう。この密命が解決すると同時に永遠の別れが訪れることを予感しながらも解決に向けて奔走する。藩の存続を揺るがす見えない敵との闘いなのにふたりの行く末が気になってしまう。究極の恋愛小説だと思ってしまうのは自分だけだろうか。2016/08/31
ふじさん
104
用心棒シリーズ第4作目。用心棒シリーズの面白さは、藩と江戸、組織人と自由人、武家社会と市井、死闘の連続の非日常と穏やかな長屋の暮らし等、武家ものと市井ものの両方を楽しむことが出来ることだ。二つの世界を生きる又八郎にとっては、又妻の由亀と嗅足の頭の佐知の存在も大きい。嗅足組の解散を伝える密命を帯びて江戸に来たが、藩の暗闘に再び巻き込まれることなる。16年振りの江戸は、哀しく切ない結末が用意されていた。細谷源太夫の切ない現実と別れ、佐知との秘めた恋の終わり等、静かで穏やかな余韻が残る。最後のシーンがいい。 2022/05/19
じいじ
97
「用心棒シリーズ」の第四巻『凶刃』はとても良かった。本作では、前作から16年経った青江又八郎の二つの姿が描かれている。藩の密命を担って江戸で任務を全うする表の顔。もう一つは、国に残してきた円満家庭を築いた妻の由亀と、江戸で密かに心を寄せる隠密の佐知との狭間で苦悶する又八郎が描かれている。他人に悟られてはいけないと、細心の気配りしながらの逢瀬は、藤沢さんらしいひかえめな描写 なのに却って気持ちを掻き立てられます。心揺れ動く又八郎に、佐知が見事な解決策を出してくれます…。とても読み心地の良い最終巻でした。2021/08/17