内容説明
旗本随一の遣い手と言われた丹下典膳は、はからずも左腕を失い市井の浪人となった。一方、一刀流堀内道場の同門である中山安兵衛は、高田馬場の敵討で剣名を挙げ、播州赤穂藩浅野家の家臣・堀部安兵衛となる。立場は異にしても、互いに深い友情を感じる二人。だが、浅野内匠頭の殿中刃傷は、二人の運命をさらに変転させた。時代小説界の巨人が、侍の本分を貫く男たちを描いた名篇。
著者等紹介
五味康祐[ゴミヤススケ]
1921‐1980。大阪生れ。早稲田大学英文科中退。様々な職業を転々とした後、文芸評論家保田与重郎に師事する。1952(昭和27)年「喪神」が芥川賞を受賞して注目された。以後、時代小説作家として活躍し、剣豪ブームをまきおこした(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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優希
94
救いも無ければ勧善懲悪の潔さもありません。それでも己を貫く男のドラマがありました。不遇の中で剣を握る丹下典膳。左腕を失い、市井の浪人となってもその姿は真実の侍に見えます。立場は違えど共感しあう堀部安兵衛との関係と運命が浅野内匠頭の件により変化していくのが儚くも美しかったです。赤穂浪士討ち入りにつながるとはいえ、討ち入りが中心というより、片腕の剣士の佇む姿を描いた物語。武士道と望まざるも降りかかるさだめが心苦しく、切なさを感じさせますが、じんわりと染み入る良さがありました。2016/09/13
おMP夫人
22
久しぶりに、凄みの利いた小説が読めて大変満足しています。元禄赤穂事件を軸に、相対する2人の、己の道に生きた武士の物語。序盤から中盤にかけては思いのほか展開がゆるやかで、ようやく弾みがついたかと思えば、そこから延々と『忠臣蔵』ではない赤穂事件のあらましと筆者の私見が1冊の本として成立するくらいに続くのですが、間延びして中だるみする事なく、これらの要素が見事に現実と虚構を融和させ、物語に深みを持たせています。ひっそり静まり返った夜に、お酒を片手にじっくり愉しむのが似合うハードボイルドな時代小説でした。2012/07/01
無花果
21
テレビドラマを見て気になったので購入。武士世界って私には理解し難いことが多々あるなぁ。白竿屋長兵衛も「お侍のすることは分らねえ・・・」っていうのだから武士にしか分らない独自の世界があるんだ。それが武士道なのだろう。 それにしてもお三と千春が典膳を思う気持ちが切ない。私としてはお三派なんだけど、やはり双方とも典膳を思う気持ちはなんとも言えない(;_:)2013/04/14
gachi_folk
14
あまりにも武士であり続けた安兵衛と典膳。2人を中心に忠臣蔵の裏側を知ることが出来る。これは間違いなく本物だ。武士の誉れと華々しく描かれ続ける赤穂浪士。その討ち入りまでの人間模様に本当があったと思う。傑作だ。2013/02/20
抹茶モナカ
11
主人公がどうにも不遇で救いがない。よく歴史や風俗を勉強されたのだろうけど、その知識をツラツラと説明する記述が多く、少し鼻につく。不遇な隻腕の浪士が、不遇な死を迎える瞬間を描くためだけに描かれたような作品。著者が不遇を囲っていて、そんな時代小説を書いたみたいだけど。僕も現代社会での不遇者だけど、武士道が絡む本作の主人公には共感出来なかった。2013/11/17