感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
240
第43回(1960年)芥川賞。 第二次世界大戦において ナチスによる 精神病者に対する抹殺計画と それに抵抗する 医師たちを描く。 「どくとるマンボウ」シリーズのイメージが 強い著者の初期作品は 陰鬱で 心が重くなる 物語だった。2017/07/25
ヴェネツィア
230
1960年上半期、芥川賞受賞作。選考委員10人のうち8人までが◎(他の2人は〇)と圧倒的な支持を受けての受賞だった(倉橋由美子の「パルタイ」もこの時の候補作だった)。言うまでもなく、V・フランクルの『夜と霧』に触発されての作である。本家がホロコーストを描いていたのに対して、こちらはタイトルにもあるように、その片隅で密やかに行われていた、精神病者の抹殺に焦点を当てた、精神科医でもある北杜夫ならではの小説だ。ただ、『夜と霧』が、まさしく当事者としての迫真性を持っていたのに比すれば、良くも悪くも客観的な視座だ。2014/04/16
absinthe
187
戦時下のナチスドイツ。精神病患者は回復が望めないなら安楽死。医師たちは患者を安楽死から救うために無謀な治療を始めようとする。その治療方法は次第に過激になり、やがて「全体のためには犠牲は仕方がない」などと言っていた医師までが青ざめる。総統を名乗る精神病患者が6人もいるというエピソードは狂気の行き着く先を暗示するのか。後半はグロ映画のテイスト。2021/11/14
青乃108号
141
北杜夫は「マンボウ」シリーズのエッセイしか読んだ事がなく、初の小説。ビックリする程純文学だった。彼らしいユーモアは影を潜め、陰鬱な精神世界を垣間見させられる重い話が五話収録。特に最後の表題作は、自分自身メンヘラ(鬱病)で閉鎖病棟に4ヶ月入院x2度経験した俺には、あの思い出したくもない屈辱の日々を、強制的にまざまざと思いださせてしまう恐ろしい話だった。もちろん作中で紹介される電気ショック療法やロボトミー手術などは俺の時はなかったけれど。精神病院の、一種独特な空気を見事に描ききったさすがの芥川賞受賞作だった。2023/06/12
kaizen@名古屋de朝活読書会
134
ドイツ人精神科医ケルセンブロック、日本人医師高島が入院している。時代は第二次世界大戦のドイツ。戦争が始まったので日本に帰れないところを、妻がユダヤ人であることから隔離。途中、高島が主人公のような展開。友人の佐藤から妻が自殺したことを告げられ、最終的に自害。最後はまたケルセンブロックの話。芥川賞らしい暗い話。時代を象徴し、その後の著者の作品からは予測できない、医師である著者の専門性について問う作品。2014/10/27