出版社内容情報
哀しい、無器用な劣等生は、社会にうまく適応してゆく人々の、虚偽を見抜く力をもつ……。先天的に、世間に対する劣弱意識に悩まされた著者は、いたずらに自負もせず、卑下もしない、明晰な自己限定力をもって、巧まざるユーモアのにじむ新鮮な文章で、独自の世界をひらいた。表題作ほか、処女作『ガラスの靴』、芥川賞受賞作『陰気な愉しみ』『悪い仲間』など、全10編を収録する。
内容説明
哀しい、無器用な劣等生は、社会にうまく適応してゆく人々の虚偽を見抜く力をもつ…。先天的に世間に対する劣弱意識に悩まされた著者は、いたずらに自負もせず卑下もしない明晰な自己限定力をもって、巧まざるユーモアのにじむ新鮮な文章で独自の世界をひらいた。表題作ほか、処女作『ガラスの靴』、芥川賞受賞作『陰気な愉しみ』『悪い仲間』など全10編を収録する。
著者等紹介
安岡章太郎[ヤスオカショウタロウ]
1920(大正9)年、高知市生れ。慶大在学中に入営、結核を患う。戦後、カリエスを病みながら小説を書き始め、’53(昭和28)年「陰気な愉しみ」「悪い仲間」で芥川賞受賞。弱者の視点から卑近な日常に潜む虚妄を描き、吉行淳之介らと共に「第三の新人」と目された。’59年「海辺の光景」で芸術選奨と野間文芸賞、’81年「流離譚」で日本文学大賞、’91(平成3)年「伯父の墓地」で川端康成賞を受けた
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感想・レビュー
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優希
94
じんわりと来る良さがあります。自分の内面を見つめて書き上げたという 印象でした。処女作『ガラスの靴』、第29回芥川賞受賞作『陰気な愉しみ』を含めてた短編集なので、初期に書かれたものなのでしょう。自負も卑下もせず、淡々と明晰な自己表現をし、時にユーモアを感じさせる世界観は独自のものをひたすら追求しているように思えました。面白かったです。2016/09/12
コージー
51
★★★☆☆処女作『ガラスの靴』、芥川賞受賞作『陰気な愉しみ』『悪い仲間』含む全10編の短編集。戦前、戦後が背景となっている。日常の出来事をユーモラスに表現していることが多いため、戦争に伴う独特の閉塞感を感じさせない。年上の女性を初めて性対象として意識する。そんな、大人になりきれていない青年期の男が持つ繊細な心理描写が、ある意味新鮮に映った。【印象的な言葉】どうせ人間、いったんチャンスをつかみそこねたら、味噌もクソもいっしょくただからなァ。 2018/07/30
はまだ
34
「ガラスの靴」「質屋の女房」がいい。現代小説とまるでちがうけども、それは、なんというか時代がちがうのですね。性みたいなものをこういうふうに書くのは、今も少し前も、あまりいない。でも、手に取るようにわかります。手に取るように。人物が主観的に感情を吐露するよりまえに、詳細に環境や人の造形を描き、まんなかの感情を推知させるような。ドーナツのマルを書いてまんなかの空洞を浮かび上がらせるような。ふるいが、ふるくない。いい短編集。すごい人っているんなー。すごいなー?(誰に ☆5 2019/03/19
tomi
32
数十年ぶりの再読。処女作「ガラスの靴」、芥川賞受賞作「陰気な愉しみ」「悪い仲間」など初期の10篇。「陰気な―」が面白い。主人公は月に一度、役所へ給付金をもらいに行く。軍隊での怪我から病気になり働けない事から支給されるのだが、働いてもこんなに稼げないという後ろめたさもあり、もし給付されなかったら、という不安もある。病気が治ることに恐怖し、もらえたお金を手に入った大福屋で役所の職員の少女を見かけて逃げ出したり…と、彼の弱気ぶりに可笑しみがある。処女作らしい瑞々しいタッチで描かれた「ガラスの靴」も良い作品。2023/03/15
hit4papa
32
私小風の実に実に陰気な短編集です。戦中、戦後の日本人青年の屈折した日常を垣間見て、厭な気分に浸ってしまいました。それぞれの作品に通底するのは、劣等意識をもった登場人物が、自身とその周辺の世界の中で埋没してく様が描かれていることでしょうか。赤裸々と言えばその通りで、逆境を跳ねのけようとする強い意志はおろか現状を打開しようという試みすら見られません。その自堕落さがリアルであるからこそ厭な気分になるのでしょう。どうせなら不快ぐらいな方が読み物としては楽しいのかもしれません。「陰気な愉しみ」「悪い仲間」【芥川賞】2017/07/30