内容説明
現在にとって未来とは何か?文明の行きつく先にあらわれる未来は天国か地獄か?万能の電子頭脳に平凡な中年男の未来を予言させようとしたことに端を発して事態は急転直下、つぎつぎと意外な方向へ展開してゆき、やがて機械は人類の苛酷な未来を語りだすのであった…。薔薇色の未来を盲信して現在に安住しているものを痛烈に告発し、衝撃へと投げやる異色のSF長編。
著者等紹介
安部公房[アベコウボウ]
1924‐1993。東京生れ。東大医学部卒。1951(昭和26)年、「壁」で芥川賞受賞。’62年発表の『砂の女』が読売文学賞、フランスの最優秀外国文学賞を受けた他、戯曲「友達」の谷崎潤一郎賞、『緑色のストッキング』の読売文学賞等、受賞多数。’73年より演劇集団「安部公房スタジオ」結成、独自の演劇活動を展開。’77年には米国芸術科学アカデミー名誉会員に推され、海外での評価も極めて高く、急逝が惜しまれる
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
465
この小説が書かれたのは1958年~59年。手法はミステリー風でもあり、また未来を予見するという意味では近未来SF風でもある。安部公房はダテに医学部を卒業したのではないということ。当時の科学水準では知られていなかったが、語られていることは遺伝子操作そのものである。そして、本作は同時にAIの将来像(それはまさに現在の姿に他ならないのだが)をも見通している。その結果は、なんともおぞましくグロテスクである。海底火山の噴火による潮位の上昇といった仮構は、あくまでもメタファーであり、ここに現出するのは案外にも⇒2023/05/02
absinthe
131
面白い!ミステリーでもホラーでもサスペンスでもある豪華な意欲作。地球温暖化、生物改変技術、人工知能の行きつく先。コンピュータにより完璧に再現された自分との戦いは論理パズルの様でもある。50年以上も前に書かれた作品だが現代社会が抱える闇の核心をついていると思う。無作為に選ばれたと思われる表の現象が裏で繋がっている展開も見事。水棲人はユーモラスで可愛らしくもある。2024/08/06
優希
122
あまりに恐ろしくて戦慄が走りました。未来を予言する機会が見た人類の行く末は、社会への警鐘そのものです。現在における未来とは、文明の行き着く先は天国か地獄か。機会が語る未来は激変したものでしたが、それを全て鵜呑みにするのはやはり難しいものがあります。別の未来があることも可能性として見なければ、豊かなものへと発展していくのを握りつぶすことになりかねないでしょう。ただ、現在に安住し、輝く未来を盲信することへの痛烈な告発は衝撃に陥ることは間違いありません。恐怖と異色に彩られたSFだと思います。2016/09/12
のっち♬
110
「本当に自分の未来を知ってしまってからでも、やはり生きたいと思えるかしら」コンピュータ、水棲生物、地球水没と、執筆時期からしても著者の発想力の豊かさを物語っている。偶発的なものから意識的なものへ、連鎖反応が結びつき、一本の鎖になって首にまきついてくる著者の未来は凶暴な生き物のようで薄気味悪い。「真の未来は、おそらく、その価値判断をこえた断絶の向こうに「もの」のように現れるのだと思う」著者は日常的連続感を糾弾し、未来の残酷さとの対決をせまる。保留静観してないで、量的現実をもう一度質的現実に綜合してみようか。2019/05/02
おたま
94
この小説の刊行は1959年。まだ小松左京も筒井康隆もデビューしておらず、初の本格SFとして登場してきた。SFマガジンが創刊されたのが1959年の12月で、この小説が単行本として刊行された直後になる。この小説が連載されたのは雑誌「世界」だった。当時活躍していたのは星新一ぐらいだろう。ここには、未来を予測する「予言機械」(現在のAI)が登場し、また温暖化の影響で世界の水没が予測される。それらの点では、これは未来を正確に描いたSF(Science Fiction)だといえる。だが、安部公房はそれを超える。2024/04/25