出版社内容情報
【谷崎潤一郎賞受賞作】不世出の天才歌人、西行の生涯を多彩な音色で歌いあげた交響絵巻。全身を震わせ全霊を賭けた恋だったのに。
花も鳥も風も月も――森羅万象が、お慕いしてやまぬ女院のお姿。なればこそ北面の勤めも捨て、浮島の俗世を出離した。笑む花を、歌う鳥を、物ぐるおしさもろともに、ひしと心に抱かんがために……。高貴なる世界に吹きかよう乱気流のさなか、権能・武力の現実とせめぎ合う“美”に身を置き通した行動の歌人。流麗雄偉なその生涯を、多彩な音色で唱いあげる交響絵巻。谷崎潤一郎賞受賞。
内容説明
花も鳥も風も月も―森羅万象が、お慕いしてやまぬ女院のお姿。なればこそ北面の勤めも捨て、浮島の俗世を出離した。笑む花を、歌う鳥を、物ぐるおしさもろともに、ひしと心に抱かんがために…。高貴なる世界に吹きかよう乱気流のさなか、権能・武力の現実とせめぎ合う“美”に身を置き通した行動の歌人。流麗雄偉なその生涯を、多彩な音色で唱いあげる交響絵巻。谷崎潤一郎賞受賞。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
438
西行の誕生から最期までを編年体で綴る。ただし、語りには工夫が凝らされていて、それぞれの時期に西行(佐藤義清)の一番身近にいた人間がそれを語る(西行自身の語りもあるが)のである。基礎資料となったのは『山家集』だろうが、西行伝としては当然のことながら随所に歌が引用される。西行が生きたのは王朝の末期から中世の初めであった。その間は朝廷も摂関家も大きく変容してゆくし、平氏一門の勃興と没落をも西行は見たのである。また、彼自身の身の上にも女院とのかなわぬ恋をはじめ幾多の試練があった。出家によって西行は世を捨てる⇒2021/04/07
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
171
「願はくは花の下にて春死なん」私の中の西行法師の知識はその歌をよんだ人、というぐらい。 息を呑むような桜、冴え冴えと静かな月の光の夜。新緑の萌える季節の若葉のはっとする青さ、水の音の清涼。美しい森羅万象、この世のすべての営みを慈しむ西行という人の視点に、こちらも一文一文を慈しみ読んだ。 これまで歴史小説といったら幕末あたりを数冊、平安時代は遠すぎて、歴史上の人物の感情が理解できず興味もあまりなかったが、この本では登場人物の感情がすぐ傍に迫って寄り添ってきた。平安時代もっと知りたい!!暫く浸ります。2019/05/04
KAZOO
148
辻さんの作品の中でも何回読んでも何か感じるところがある作品です。ストイックな感じがするので最近の若い人には人気がないのかもしれませんが、私はたまに読みかえします。武士であった人物の心のうつり変わりがよく書かれています。歌人として生きたその心の中をよく描写されています。2018/01/31
ケイ
126
西行は、もとは武士であり、そして清盛と同時代とは驚いた。保元の乱・平治の乱、頼朝とも面識があり、平家が滅んだ後も存命であった。タイトルにある「花伝」は「歌伝」とかけたか。西行について身近な様々な人物に語らせているが、そもそもなぜ出家したのかは作者の創造であり、権力闘争にいたる登場人物達の心持ちを多くの会話などを通して創作されているが、どうにもまどろっこしい。歌が短い字数で様々なことをふくむのと対称的ではないか。歌に明るくない私でも、西行の言葉の、様々なことを含んだ響きに惹かれる。いっそ歌集を味わおうか。2020/12/13
ちゃちゃ
126
歌に命をかけ、この世の森羅万象(いきとしいけるもの)を愛した西行。辻氏の流麗精緻な筆致で浮き彫りにされた、西行の花や月や人へのひたすらな愛おしさや慈しみ。歌はその生命の輝きを言葉として保存する器として、時を超えて人の心に働きかける。平安末期、保元・平治の乱を経て、武士の台頭、平家の滅亡という動乱期を生き抜いた西行。待賢門院への秘めたる恋、歌の力による治世を目指した崇徳院の非業の死などを経て、歌人として崇高な歌境に至る生涯は、私にとっても西行という歌人への新たな気づきに満ちた濃密な読書の旅でもあった。2020/04/03