内容説明
倒錯した愉楽の使徒・サド侯爵。風俗壊乱で獄にある彼を、妻ルネは十八年にわたり待ち続ける。だが釈放の刹那、一転、修道院へと向かう決意を固め…。果して妻は、夫の何を信じていたのか(「サド侯爵夫人」)。血塗られた粛清の奥底に潜む、独裁者を衝き動かした狂気とは?(「わが友ヒットラー」)。互いに照応し合う「一対の作品」と自ら評した、代表的戯曲2篇。「サド侯爵夫人」は澁澤龍彦に感化され執筆。芸術祭賞を受賞した。
著者等紹介
三島由紀夫[ミシマユキオ]
1925‐1970。東京生れ。本名、平岡公威。1947(昭和22)年東大法学部を卒業後、大蔵省に勤務するも9ヶ月で退職、執筆生活に入る。’49年、最初の書き下ろし長編『仮面の告白』を刊行、作家としての地位を確立。主な著書に、’54年『潮騒』(新潮社文学賞)、’56年『金閣寺』(読売文学賞)、’65年『サド侯爵夫人』(芸術祭賞)等。’70年11月25日、『豊饒の海』第四巻「天人五衰」の最終回原稿を書き上げた後、自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決。ミシマ文学は諸外国語に翻訳され、全世界で愛読される(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
- 評価
本屋のカガヤの本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Gotoran
61
『サド侯爵夫人』:サド夫人は貞淑をその母モントルィュ夫人は法・社会・道徳、シミアーヌ夫人は神、サン・フォン夫人は肉欲、サド夫人の妹アンヌは無邪気さと無節操、召使シャルロットは民衆を、夫々、代表していると。サド侯爵に貞淑を尽くすとはどういうことか、最後にどう思われていたかという三島の解釈が興味深かった。『わが友ヒットラー』:一夜にして右、左の両方を切捨て中道を行くと民衆に思わせ独裁体制を築いていったヒットラーの政治手腕とその苦悩を描く。女性ばかり前者に対して男性ばかりの後者、対を成すと巻末自作解題にあり。 2021/03/21
けぴ
37
三島由紀夫の戯曲は初読み。『サド伯爵夫人』は女性のみ、『わが友ヒットラー』は男性のみの登場人物で構成される。前者がおすすめ。特に第二幕のサド伯爵夫人であるルネとルネの母親のモントルイユ夫人のかけ合いは迫力があった。1965年に発表されて舞台化された当時は絶賛されたそうです。三島由紀夫も意外と作品の幅が広いことを感じた。2024/12/04
kei
29
『サド侯爵の生涯』澁澤龍彦『アドルフ・ヒットラー』アラン・ブロックから着想を得て書かれた三島が「一対の作品」と言うように見事な対になっている作品。それぞれの作品のサド侯爵夫人(ルネ)とレームが自分の信条を譲ることなくわが道を進んでいくあたりは内容は全く異なりますがジッドの『狭き門』を思い出しました。ぽんぽんと会話のみのやり取りが続く戯曲を読むのは苦手なんですが、この二作品は一人の口上が長く読みやすかったです。『わが友ヒットラー』で扱われているレーム事件を今回初めて知りました💦まだまだ不勉強です。 2021/01/25
sasara
27
三島由紀夫戯曲初読み。暴力的な性行為サディズムはマルキドサド侯爵由来、この恐ろしく残忍な実在した人物から着想し関わりある女性だけ6人で演じる「サド侯爵夫人」1934年ナチスヒットラーが党内極右勢力、極左勢力を粛清し中道路線へ進むレーム事件を男性だけ4人で演じる。演者に頼らない三島由紀夫戯曲は凄い。2021/02/24
バズリクソンズ
23
三島由紀夫の戯曲は初めて読んだが、澁澤龍彦のプロットからサド本人ではなく婦人にスポットを当てて完成させる辺りは流石の内容。そしてヒットラーにまだ人間性がわずかに垣間見れたという設定で書かれたわが友ヒットラーと二作品どちらも甲乙つけ難いほど素晴らしい。三島由紀夫にしか書けない台詞の数々は会心作である。どちらの作品も人間関係における心の機微を見事に表現しきっている。この新潮文庫版はさらに三島による自作解題が収録されており、秀逸な解説でより深く作品を理解しながら味わう事ができる。三島由紀夫の実力を存分に堪能した2025/06/26
-
- 和書
- 中村傳三郎美術評論集成