出版社内容情報
はやくから謡曲に親しんでいた著者が、能楽の自由な空間と時間の処理方法に着目し、その露わな形而上学的主題を現代的な状況の中に再現したのが本書である。リアリズムを信条としてきた近代劇に対して、古典文学の持つ永遠のテーマを“近代能”という形で作品化した8編の大胆な試みは、ギリシャ古典劇にも通じるその普遍性のために、海外でも上演され好評を博した。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
202
再読。『邯鄲』をはじめとした、比較的よく知られた謡曲を原典として書かれた8篇の戯曲集。謡曲(能楽)の持つ抽象性と普遍性の発見がその根底にある。オペラの「読み替え」を、もっと徹底させたものとも言えるが、三島の戯曲は、古典的な格調を失わず、それでいて現代的なスタイルを纏うことに成功している。ここでの戯曲はいずれも上演を前提としてはいるが(事実、今も再演されている)舞台はきわめてシンプルであり、演じる役者達の動きも大きくはない。すなわち、「言葉」こそがこれらの戯曲の最大の構成要素であったのである。2012/08/27
新地学@児童書病発動中
134
文学者としての三島由紀夫の長所は小説よりも、演劇の中で発揮される。今回この『近代能楽集』を読んで、特にそう感じた。美と猥雑、生と死、男と女、幻想と現実、過去と現在といった対立する要素が、一つに縒り合されて唯一無比の世界が作りだされる。作者が楽しんで書いていることが分かって、その喜びが読者に伝わってくるところが嬉しい。一つ一つの台詞もすべての登場人物も生き生きと躍動しており、読んでいて胸が弾んだ。「卒塔婆小町」が私のベスト。猥雑でグロテスクな現実を突き破って、詩情と切なさが漂う終わり方が素晴らしい。2016/10/23
優希
123
能のことはよくわからないので、普通に戯曲として読みました。古典と近代が綺麗に絡み合い、独特の世界観が感じられます。過去を新たに置き換えることで出来上がった作品の数々は、三島の想像力あってこそのものだと思いました。実際に誰かが演じている姿が浮かび上がり、まさに舞台を見ているような感覚に陥ります。2017/04/29
takaichiro
120
三島由紀夫の美への拘り、センス、文才が凝縮された作品。原典が能にも関わらず古さを感じない。シュールな8作品はどれも印象的で海外でも上演され好評を博したことも納得。日常生活にはない時間・空間の自由な設定。ストーリー展開のスピードも作品ごとに異なり250ページ足らずの1冊にいくつもの異空間が存在している。フィクションの極みをしっかりと見せられた読後感。読書生活の中でいくつか戯曲集に接したがピンと来た記憶が殆どない私でも、この作品は舞台で見てみたいと思えた。少しお休みしていた三島さんへのアプローチを再開したい。2020/01/13
buchipanda3
100
能楽を読む試みとして次はこちらを。本作は著名な謡曲(能の脚本)の舞台を現代に置き換えて語り直した作品集。各曲とも事前に元ネタのあらすじを頭に入れてから読んだので、その展開を比較しながら面白く読めた。邯鄲の枕や綾の鼓、扇の交換など同じ道具が登場しても、その結果が必ずしも同じとは限らない。能楽が見せる叙情性、儚さ、虚しさ、恋慕の果て、執心など人が囚われてしまうものは普遍的であるが、人との関係の在り方の変移からか、現代劇で見るとより明け透けなものに感じられ、それがまた妙味。「卒塔婆小町」「班女」が特に印象深い。2025/01/06
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