内容説明
老成と若さの不思議な混淆、これを貫くのは豊かな詩精神。飄々として明るく踉々として暗い。本書は初期の短編より代表作を収める短編集である。岩屋の中に棲んでいるうちに体が大きくなり、外へ出られなくなった山椒魚の狼狽、かなしみのさまをユーモラスに描く処女作『山椒魚』、大空への旅の誘いを抒情的に描いた『屋根の上のサワン』ほか、『朽助のいる谷間』など12編。
著者等紹介
井伏鱒二[イブセマスジ]
1898‐1993。広島県生れ。本名、満寿二。中学時代は画家を志したが、長兄のすすめで志望を文学に変え、1917(大正6)年早大予科に進む。’29(昭和4)年「山椒魚」等で文壇に登場。’38年「ジョン万次郎漂流記」で直木賞を、’50年「本日休診」他により読売文学賞を、’66年には「黒い雨」で野間文芸賞を受けるなど、受賞多数。’66年、文化勲章受章(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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青乃108号
185
小学校の時に教科書で読んだ「山椒魚」。懐かしい。その他11編収録の短編集。どの短編も面白いが中でも「朽助のいる谷間」「へんろう宿」「言葉について」「女人来訪」が良い。それぞれに女性がなんとも魅力的に描かれており好ましい。漫画家つげ義春の諸作品との類似点が多く、いかに大きく影響を与えたのかが分かって興味深い。たまにはこのような古い作品にのんびり浸ってみるのも良いものだ。なんとも言えず癒される。そのうち作品世界から離れ難くなり、また日常に戻らなくてはならないのが悲しくなるほどに心地良くいつまでも浸っていたい。2023/07/28
ehirano1
177
「山椒魚は悲しんだ」と開幕のインパクトが半端ではないですwww。山椒魚の取り乱しぶりには思わず笑ってしまいましたが、本作は「許す」ということがどんなに難しいかをメタってるのではないかと思います。一方で、相手の気持ちってのも思い図ることが超絶に難しいと改めて認識しました。ラストシーンのカエルはかっこよかったです。2022/11/11
ケイ
149
「メロスは激怒した」の一文は、私の中でいつも「山椒魚は悲しんだ」に呼応する。そこで、その一短編のみ再読した。ああいやだ。なんでやつなのかと思った。数年前に読んだ時は、カエルの最後の言葉にホッとしたのだが…。キミはもう、ひたすら後悔して悲しむがいいさ、という気持ちになった2020/05/10
優希
146
ほぼ全ての短編に魚や花、雪というように自然が出てくるのが印象的でした。心情や風景がそのまま文章になっていて、哀愁とユーモアの狭間を漂う空気感が好みです。独特の味わい深さがある作品だと思いました。2017/02/24
黒瀬
114
高校の現代文の授業で触れて以来、一瞬で虜になった作品でもう何度読んだか憶えていません。十ページほどの短編ですが情景描写が秀逸。文章が美しいからか驚くほど鮮明に頭に浮かんできます。体が成長し、住処である岩屋から出られなくなった山椒魚。その岩屋にうっかり迷い込んだ蛙との意地の張り合いが微笑ましさと共に、切なくユーモラスに描かれている。意地を張り続けた結果、最終的に取り返しがつかなくなるという、おそらく多くの人が一度は経験したであろう事柄を皮肉った作品ではなかろうか。『へんろう宿』もお気に入りです。2019/09/13