出版社内容情報
〈救い〉とは何だろう? 文学が最後にたどりつく永遠のテーマ〈救済〉を静かな筆致でとらえた傑作。
地獄に落ちた男が、やっとのことでつかんだ一条の救いの糸。ところが自分だけが助かりたいというエゴイズムのために、またもや地獄に落ちる「蜘蛛の糸」。大金持ちになることに愛想がつき、平凡な人間として自然のなかで生きる幸福をみつけた「杜子春」。魔法使いが神の裁きを受ける神秘的な「アグニの神」。少年少女のために書かれた、健康で明るく、人間性豊かな作品集。
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  感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
522
          
            「蜘蛛の糸」をはじめ、雑誌「赤い鳥」に掲載された作品を中心とした短篇集。そのいずれもが、まだ20代の芥川初期のものだが、小説作法、構築性において既に極めて完成度が高い。主題との関連でいうなら、注目すべきは「杜子春」だろう。杜子春の仙界入りの試練において、とうとう最後の「愛」に彼は屈してしまう。仏教においても、道教においても「愛」は愛執、愛着に見られるように断ち切るべき迷妄であった。「愛」を価値あるものとするのは、まさしく近代的な価値観にほかならず、芥川のなしたのは、まさにそうした価値の転換だったのである。2013/02/06
          
        ヴェルナーの日記
373
          
            芥川作品の中で、自分的には上位を争う作品群が編まれている。『地獄変』や『羅城門』のような先鋭観のある動的な描写とは違い、牧歌的で静謐な趣きのある描写は、好対照な観を感じさせてくれる。『杜子春』はいうに及ばず、『トロッコ』の良平が、自分自身の幼い子供の頃の経験と相まって、哀愁と慕情を胸中に二重写しとして、懐かしい想いを抱かせてくれる作品。また、白い犬を飼ってきてこともあって『犬と笛』や『白』も捨てがたい。いずれにしろ芥川作品を読むのなら、必ず目を通してもらいたい1冊である。2015/12/17
          
        ehirano1
316
          
            標題の一角「蜘蛛の糸」は国語の教科書で読んで以来(たぶん)です。言わずと知れたラストシーンの利己的行動は、佐藤優の著書で述べられているキリスト教の「人間の罪」というものを巧く表現しているのではないかと思いました。2022/09/03
          
        森林・米・畑
244
          
            本屋さんの夏の書籍売場の陳列で目を引いたので。芥川作品は子供の頃、半ば強制でいくつか読んだと思うが記憶に無い。大人になって初めて読んだが短編なのですき間時間に読めて内容も面白かった。この本は年少者の為の作品群というが、少年時代の私なら難しくとても理解できないと思った。私としては杜子春、アグニの神、仙人、白が良かった。2022/08/14
          
        ちくわ
240
          
            【蜜柑】王朝物とは随分雰囲気が異なる…オレの知る龍ちゃんじゃない! どちらかと言えば、オー・ヘンリーの短編の読後感に近かった。作風は オー・ヘンリー=独自のプロットと哀愁漂うユーモア、芥川=洗練された文と巧みな心理描写 と趣きは異なるが、短編としての切れ味がどちらも鋭く甲乙付け難い。内容だが、本作の無気力な私は終始ぼんやりとした傍観者である。対して小娘は色鮮やかで生命力に満ちている。芥川は最期に自殺する訳だが、二人の対比が彼の行く末を暗示しているようで少し怖かった。次は晩年の代表作『河童』を読んでみよう。2024/04/07
          
        

              
              
              

