内容説明
詩は単に詩であれば足りる―ボードレール。絵画が宗教的権威や政治的支配から逃れ、絵が絵として屹立するまで。光と色の関係、モチフの探求、狂気の受容、西欧文明嫌悪、崩壊の直観…著者の慧眼は、画家達の独創精神の振る舞いを通し、その歓喜、そして絶望的哀しみを悉く見抜いていく。近代という奔流の中での絵画芸術の躍動を捉えた野間文芸賞受賞の歴史的名著。カラー図版61点収録。
目次
ボードレール
モネ
セザンヌ
ゴッホ
ゴーガン
ルノアール
ドガ
ピカソ
著者等紹介
小林秀雄[コバヤシヒデオ]
1902‐1983。東京生れ。東京帝大仏文科卒。1929(昭和4)年、「様々なる意匠」が「改造」誌の懸賞評論二席入選。以後、「アシルと亀の子」はじめ、独創的な批評活動に入り、『私小説論』『ドストエフスキイの生活』等を刊行。戦中は「無常という事」以下、古典に関する随想を手がけ、終戦の翌年「モオツァルト」を発表。’67年、文化勲章受章。連載11年に及ぶ晩年の大作『本居宣長』(’77年刊)で日本文学大賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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A.T
25
後悔先に立たず、もっと早く読みたかった。でも、今読めてよかった。ボードレール、モネ、ゼザンヌ、ゴッホ、ゴーガン、ルノアール、ドガ、ピカソ…なぜ近代絵画はフランスを中心に隆興したのかがわかりそうだ。サロンや社交界に認められずにフリーで芸術家を自負していけた、現代に引き継ぐアートの世界のシステムが19世紀末に展開。どんなやり方もテーマもアリ、という近代絵画を生々しく捉える。世界観を無から立ち上げ追求し続けた作家たちの人生が作風に投影される。小林秀雄氏の深読み、凄いです。ピカソの断捨離と真逆の生活感に特に納得!2022/10/17
梅崎 幸吉
24
小林秀雄が近代画家達の魂に親和しつつ即し即さず心眼にて描いた著作。特にピカソの章は彼自身の意識状態と重なっている。比類なき魂の評論。「芸術家は最初に虚無を所有せねばならぬ」と。「呪われた道」とは「虚無的世界観」の異名でもある。これは今日でも打破されてはいない。2024/06/06
sabosashi
14
小林秀雄は批評の王様だとみなす人たちもいる。しかしながら遅かれ早かれ小林は追い越されていく。自己韜晦の度がはげしい。屈折さに人を取り込もうと企てる。この「近代絵画」では議論自体についていえば、古めかしくて、それを問うてもしかたがない。いくら文芸と美術とにアナロジーのようなものがあろうとも、議論にムラがある。 小林の頭は冴えきっているのか。おそらくそうかもしれない。批評の大本には感性と理性のせめぎ合いがあるはず。2024/01/15
ハチ
13
苦戦しながら読了。 一文一文がズシっと重力を持っていながら、鋭く頭が大喜び→疲弊。 特に、セザンヌの項が印象に残った。 シャイ過ぎるセザンヌが口下手で、なんとか絵画で持って自分を表現していったであろう考察が愛に満ち溢れていた。 本物の芸術批評に叩きのめされた。 また挑みたい。2023/05/12
エジー@中小企業診断士
3
歴史的名著を読む。近代絵画の運動とは、根本のところから言えば、画家が、扱う主題の権威或は、強制から逃れて、いかにして絵画の自主性或は独立性を創り出そうかという烈しい工夫の歴史を言うのである。美とは、一般に感性的所与の要求するところに応じる私達の統覚活動の一様態なのだが、この活動が自然で自由で積極的な場合、対象は、この活動に貫かれる。対象は私達に所有される事によって対象となる。感情移入とは、私達の生命力の対象への移入なのである。美的享受とは、客観化された自己享受なのである。要するに、色とは、壊れた光である。2023/04/18