出版社内容情報
生誕百年の時を超え、今蘇る珠玉の62作品
袖摺り合わせた者同士が、共に生きる。形式や世間体にとらわれることなく、思い思われて結びついた縁の、大切さ、頼もしさ、温もり――切なくてほっとする作品群。『むかしも今も』『並木河岸』他12作品収載。
内容説明
袖摺り合わせた者同士、縁を結び、共に生きる。そのぬくもり―。生誕100年の時を超え、いま新たに蘇る珠玉の作品の数々。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
山内正
4
又余計なことを お石が 俺の写生帖がない 何処かにあるよ 何処へ行くのさ食ってかないのかい 狩野派から飛び出し七年に 違う画風と気負った画会は失敗 目の前に枝が肌がの櫟の林が川面に影を落してる 阿波屋から依頼の風景だと 本描して三月になるが 長屋に戻ると家から女の声がする 六七人集まって笑ってる 絵を売ったと声にえっ誰に 売る絵無い筈 まさかあれを えっ返すのかい金を お願いですあれは破らないと ええ六曲一双墨だけで描きます 四年も姿を消し戻ってきた 見知らぬ老人が祝をと 後ろにお石が2022/03/26
山内正
4
空地の砂で初めておしっこした まきは病気も貧乏にもならないんだ お守りし親方に世話になった直吉 二十ニで女将さんが亡くなった 親方も身体を壊した 清次とおまき の世話をと頼まれて亡くなった 三回忌が済んで清次が崩れ出す やがてもう江戸を出ないと身動き取れねえと清次は発った 借金の始末が店を手放しやっと終わりまきに子が産まれた 地鳴りがし家の下敷きになる まきは目が見えなくなっていた 坊とまきを俺は預かったと直吉 子の文吉が働き直さんに楽してと まきが呟く 初めておしっこしたのここで? 歩いた?私 2020/01/08
山内正
3
多助が牢に入り長吉は預けられる 鉄次はこれで三度目かと流産を お帰り怒ってるのね?ごめんね おていは泣きながら言う 店のお梶が、私は直ぐに分かったわ 思い出せねぇ おていも知ってるのか 並木河岸もか ねえ私と遠出しない? あんたとならいいわと おていは話を聞き私もと言い出す 約束の日長吉の手を繋ぎ橋まで 五つ目の木でおていはまっていたっけ おじちゃんおばちゃんがと ゆったりと歩いて木のとこへ あたし時々来るのここへ 分かったもう泣くな 長吉を引取ろう2020/03/26
山内正
3
お民は客に酌をしながら返事を濁す 二三日したらと帰る 母と下女奉公で下働きをし十三で母を亡くしたお民は小料理屋で働けと 奉行の息子半之助と何度か会う内 どうせ一緒に成れなくたってと思う 雨の夜人を斬ったと現れたきり別れ 藩の外れの離れに老夫婦が住み一年になる ある夜赤子の無く声がした 誰の子かも知れず育てる事に 下女を雇い一年の約束で始めたが 子の成長に三年五年と過ぎ 七年目に半之助が帰ると老夫婦が言う 貴女がお民さんて分かってましたよ 小太郎をこれからも頼みます お民は思わず お母様! 2020/01/03
山内正
2
おはんが留守だ 湯屋から帰ると支度をしてた!何かあったか あんたのお兄さん来たのよ 呉服屋の息子だったのね 母親はおはんの様な女は家に入れねえと分かってる 兄さんは義理が有るって言ってた おはんに後で相談に乗るからこの家に残ってくれと兄が言った おはんは嬉しそうに振る舞った 明けて河岸に挨拶に行き兄と家を出た 店の二階に上がり親戚一同が集まっていた 二人下座で挨拶を兄が始めた 実の母親と兄がこのまま店を続けるのがいいと酒を飲み悪態を付いた 勘当と呼ばれ店を出る お前さん おはんがいた すまねぇおっかぁ2020/01/20