内容説明
今に変わらぬ男女の小さな哀歓を、無限の共感で描いた、下町ものの傑作全七篇を収録。うらぶれた屋台店に居場所を求める男達の素描「嘘アつかねえ」、岡場所で交錯する秘密を持った男女を描く「夜の辛夷」、飛脚と宿の女の純愛を鶴の置物に託した「鶴は帰りぬ」、誰からも顧みられない少年と少女の思慕が哀切な「榎物語」、ぐれてしまった植木職人のやるせない生き様「あとのない仮名」、長屋住まいの浪人と棄児、住人との交流を軽妙に描く「人情裏長屋」、強欲な家主への長屋住人の抱腹絶倒の復讐劇「長屋天一坊」。巻末エッセイは、周五郎作品を多く演じた俳優、仲代達矢。
著者等紹介
山本周五郎[ヤマモトシュウゴロウ]
1903年山梨県出身。質店の徒弟、雑誌記者を経て、26年『須磨寺附近』で作家デビュー。『日本婦道記』で直木賞に推されるも辞退。その後もすべての文学賞を辞退しつつも多くの傑作を残した。67年没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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イッセイ
5
やはり「榎物語」「人情裏長屋」が◎(T)2011/10/30
timeturner
4
ああ、これはいいねえ。私が求めている時代小説のよさはこれなんだなと思う。切なくてやりきれない話もあるけど、どれを読んでもしみじみと胸にしみてくる。流れるような文章、目の前にその場のようすが浮かぶ情景描写、話し手の気持ちや性格が伝わってくる語り。巧い。2015/10/16
イッセイ
4
傑作選1、2が続いて刊行されたのに、続かない…。ひょっとして打ち切り?となかばあきらめに入っていたところ、ようやく刊行。やっぱり山本周五郎はいいなあ。髙田郁にハマった人に薦めたい。「鶴は帰らぬ」「榎物語」「人情裏長屋」が◎2010/10/14
山内正
3
源次の食べっぷりを見ながら女は ねぇ浮気しない?と誘う あんた所帯持ちに見えないわと 店を出て 弟分の多平は源次の心配をする 植木職に戻る気はと何度も聞く 植木屋の跡を継ぐって話もあるが 隠居屋敷に入り 前に植えた杉の枝振りを見る 善五はこの野庭を岩組にすると 芦ノ湖の一画をそのままここに造りやがった 植木職が庭師に盾突くのは筋違いだ あいつは下の木を見て無かった 楓の木が枯れれば岩と枯れ木だけと 気づかなかった 商いと愛情のけじめを付ける気になれなかったのかと隠居が 周りは女たらしの男と言うが2019/12/21
山内正
3
宿に寄ると多平が福太が源次を探し廻ってると 仕方なく隠居のとこへ 善五郎は庭つくりに芦ノ湖まで行き そのまま造った野郎だと話す 真っ暗で何処だか分からねぇ女が横に 帰るわね お休み 向島か 隠居に冷や汗と一緒に本音も出したらどうだえと言われ 一口飲む 選んで植えた松の木を福太が切りやがった おめぇ愛情と商いのけじめつける訳に行かねぇのかいと ここおめぇ一人でやってるのか? 別れて二年 ここは始めてだ 通いの女休ませてもいいんだよ! 店を出て清七はおたえが死んだと どの女か解らない おめぇはそんな男だよ! 2019/12/11