出版社内容情報
今はもういない、大切な人に会いに行く
〈家族を持たない私に、帰るべき家はない。気ままに転居をくり返してきて、いまも仮住まいをつづけているような気分だ。私に帰る家はないけれど、これから旅する場所はいくらでもある。〉──あとがき
ノンフィクションを書くために、ゆかりのある人や土地をたずねて旅を続けるなかで呼び起こされる過去の記憶や懐かしい人びと──。沖縄にルーツをもつ自身の家族の物語から、近現代史にまつわる論考、台湾・韓国の芸術家をめぐる紀行や、取材・執筆の日常を綴った掌編など、読むほどに旅愁がつのる珠玉のエッセイ集。文庫化にあたって、新たに「証言する木」「帰ってきた王の肖像画」など4編を収録している。
〈私が知る恵姐はいつも人に囲まれていた。特に、彼女を慕う女性は多い。その仲睦まじさは、家庭の相談事や愚痴を長老に聞いてもらいたくて、アジアのどこかの井戸端に女性たちが集まる光景を彷彿させた。[中略]
沖縄という独自のアイデンティティと誇りを持つがゆえに、東京にいても漠然と抱き続ける違和感。けれども、どこにいても逃れられない、彼女の異邦人としてのまなざしは、旅に出ると一転して強力な矛と盾となる。そのゆらぎは、行った先々で、その場所からちょっとはみ出してしまった人を磁石のように引き寄せる。ちょうど、私が引き寄せられたように。〉──解説・星野博美
【編集担当からのおすすめ情報】
読み進めるうちに、いつしか自分も“大切な人”の記憶をたどる旅に出たくなる──著者・与那原恵さんの旅のエッセイは、そんな不思議な魅力を持っています。
与那原さんが生まれた東京・池袋、幼いころに過ごした千葉・内房、そして両親のルーツである沖縄……語られているのは、ごく個人的な家族の物語なのに、どこか既視感があって、懐かしい思いにもさせられます。旅先でこの文庫を読むのもおすすめです。
解説は、『世界は五反田から始まった』『馬の惑星』などの近著も話題のノンフィクション作家・星野博美さん。読者が与那原作品に引き寄せられる理由を解き明かしてくれています。