内容説明
夏の北海道。動物写真家を目指す吉本は、巨大なヒグマに遭遇する。絶体絶命の状況に陥ったとき、女が現れ、まるで催眠術をかけるかのように熊を追い払った。女は正体も明かさずその場を立ち去る。一年後。吉本はヒグマの生態調査の取材で道南を訪れる。調査隊責任者はあの謎の女、小山田玲子だった。ある日、調査隊のひとりが金毛の熊「カムイ」に襲われ負傷する。カムイも、そして吉本を襲ったヒグマもかつて玲子が育てた熊だった。銃弾を受け手負いとなったカムイを追ってふたりは再び原野へ。アイヌの言葉では、真の悪神を「ウエンカムイ」という。カムイはウエンカムイになったのか。ヒグマと人間との壮絶な闘いが始まる。金毛の熊「カムイ」を追う男の自立と壮大な自然を活写する力作!第10回小説すばる新人賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
モルク
91
カメラマン吉本は北海道で羆に襲われかけるが間一髪で謎の女性に救われる。1年後、羆の生態調査の取材に赴いた吉本は彼女と再会し、人を喰う羆「ウエンカムイ」の追跡に同行する。熊谷さんのデビュー作にして「小説すばる新人賞」の受賞作。手負いの羆の恐ろしさ、対峙の際の臨場感などドキドキする。が、後の名作「邂逅の森」とどうしても比べてしまう。「邂逅の森」の片鱗が見える作品ととらえよう。表紙の羆、爪を立て牙をむいているが、この目のせいか、なんとなく可愛らしい。2020/09/13
ゆみねこ
69
カメラマン・吉本は、夏の北海道でヒグマと遭遇するが、突然現れた不思議な女性に窮地を救われた。一年後、再会した彼女と、幻のヒグマ・ウエンカムイを追う。大自然の中で生きる野生の獣、熊谷さんのデビュー作。2016/12/11
まーみーよー
25
熊谷達也さんのデビュー作。『相剋の森』のカメラマン、吉本が主役。羆文学。北海道の渡島地方が舞台。羆が潜む山の中の緊迫感が感じられて、こちらも恐ろしくなってくる。山の中で無防備な時と、捕獲罠に入った羆を見る時との感情の対比がよく描かれている。200ページほどの作品だが面白くて一気読み。良かった。2025/03/13
まるぷー
20
アイヌ語で人を食う悪い神が憑いたヒグマはウェンカムイという。北海道南端の渡島半島で北大のヒグマ研が発信機を着けたテレメトリー法によりヒグマの追跡調査を行う。小山田玲子講師と学生の田山や猟師の柿崎に動物写真家の吉本が同行する。学生3人と熟練猟師を食い殺した金毛の巨大なヒグマを捕獲し発信機を着けるが、手負いとなり逃亡した。追跡する吉本らに忍び寄る恐怖、留め足かもしれないと柿崎が警戒を発するあたりから読み手も緊張が走る。手負いは必ず人を襲うため殺さなければならない。野生動物と人間の共存がどうあるべきか? 2021/07/06
あっちゃん
20
羆もの!無駄の無い内容で、少ないページ数の中で羆や自然、山に入る心得など上手く書き上げている!新人賞としては極上(笑)2018/08/26