内容説明
エルヴェ・ギベールは、エイズと闘いながら命と競うようにして作品を書き続け、’91年末36歳で逝った。死の翌月『赤い帽子の男』が刊行され本国フランス中に衝撃を与えたのだが、それから約1年を経て発表され更に大きな話題を集めたのが本書である。『楽園』、『天国』とも訳せる極めて暗示的な題名のこの作品、主人公はマルチニーク島やタヒチのボラボラ島など南の海の「楽園」を美女と一緒に旅して回る。これまで「男と女」の関係を決して描いたことのなかったギーベルが、ここではくり返し「ぼく」と女の激しい愛を描き、更に未知の文学世界に踏み込んでいく。彼の絶筆となったこの作品、悲しいほど純粋で残酷な想像力が胸を衝く。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
YO)))
12
死美人=水死体の彼女を追いかける.ファム・ファタールもの.『「ウニを食べるといつでも気が変になってしまうわ。まるで小さな牝猫の陰部をしゃぶってるみたい、少女の、牝狼の、女狐の、牝のキリンの子の陰部。」帰り際に彼女は食べたものを全部吐いてしまった。』 振るっている.2015/05/10
ゆるりは
8
ぼくと恋人ジェーンのアフリカ旅行回想記。天国と地獄を混ぜて作ったスムージーのような日々が長い一文の連続で語られていきます。中身のインパクトと、淡白で時にユーモアを感じる語り口のギャップが癖になって、読みながらマルチニークの上空を浮遊しているような感覚にさせてくれる狂気的な書なのですが、なにか自分の中の凝り固まりをリセットしてくれるような、心の一部を無垢に戻してくれるような効能があり、とても心地よかったです。2022/05/19
miaou_u
7
『LE PARADIS』というタイトルと、ギベールの楽園への旅を憶う。かつて、あったもの。存在したもの。 今は、存在しないもの。 いま有る空っぽな、空虚な精神との対比。生、死、愛、全てのいとなみと共にそこに漂流する。眩瞑につぐ果無い眩瞑。最後は、無に還るのみである。2018/04/15
渡邊利道
2
カリブの島で恋人を失った主人公が、死体を抱えて右往左往する純然たるフィクションに、ギベール自身の人生の細部がじわじわ染み出して行って、唐突にぶち切られる。この混乱さえも計算されたもののようにも見えるが、だからといって混乱していないわけではもちろんないだろう。嘘と本当、事実と虚構の違いなんてものは生きる上では全然問題にならないサジだったりするのだ。2020/09/01
Mark.jr
2
文体からパンクを感じます。カッコいいです。2018/12/28