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内容説明
秋が始まり、木々は黄、赤、褐色に染まって、美しい谷間の小さな温泉保養地は、まるで炎に包まれたよう。ヤクフは不当な粛清によって投獄された過去のある男。亡命への旅立ちを前に、友人らに永久の別れを告げた温泉地へ立ち寄るが…。ふとした成行きで看護婦ルージェナの薬の小壜に毒薬を混入したことから、物語は無限に拡がったいく。医師スクレタ、若い女オルガ、有名なトランペット奏者に美貌の妻、アメリカ人実業家―。幾組もの男女がもつれあい、めくるめく円舞のうちに、思いがけない結末へ―。自らを圧殺する祖国への別れを告げて奏げる、クンデラの愛と死の遁走曲。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
七
6
チェコ人作家の戯曲。交わるはずのなかった男女が度重なる偶然の力で入り組みあっていく。それでいて作為的な印象はなく、すべてが自然な流れのようだった。善悪に悩む人間の心がリアルに描写されていることもあって、非常に臨場感の強い作品。あっという間の読了感。/これを機に、チェコスロバキアの歴史についても少し触れることができた。文学を通してさまざまな国を知っていきたい。2021/04/12
けいと
3
再々読映画「ルルドの泉」も温泉保養地だったし看護師が患者より男の人ばっかり見てたな〜。2013/12/03
梅子
1
初クンデラ。群像劇ながら全ての登場人物に強烈に感情移入させられ疲労困憊する。あとがきで"ヴォードヴィル的"と表されるが、確かにプロットを強く感じる展開。ただ全員を鬱病一歩手前まで追い込み、唐突でありえない出逢いによって癒し、互いを憎悪させ、予期せぬ展開によって再びドン底に突き落とし、煮え切らないまま全てを終わらせる純文学特有の"毒"を、登場人物一人一人の心情に深く耽溺することで極めて自然に展開させる力量はさすが。犬の虐殺によってチェコ社会の暗黒面を曝け出し、全体の雰囲気を共産主義の閉塞感で上手く纏めている2023/12/19
hisajun
1
☆☆☆☆☆2008/10/10
Teruhiro Hori
0
集合知で形成された愛が崩れ、あるいは崩れ去る時、人の心は、情念はいったいどうなるのか。愛と肉欲は別だと偽善者はのたまうが、男から見た女の美しさは外観だけでなく、肌、香り、吐息、眼をつむった横顔、、、様々だ。のようなストレートな愛という名の色浴・欲望が、ためらいない筆致で刻まれる。「彼にとって女性たちの世界は、彼がこの国で参加し、そのなかで迫害者と被迫害者になり、多くの闘争を経験したがひとつの牧歌も経験しなかった苦いドラマと一体になっていた」。名文かつ秀訳である。2014/06/12