出版社内容情報
時田翼32歳、農協勤務。大酒呑みで不機嫌な父と二人暮らしで、趣味は休日の菓子作り。そんな翼の日常が、庭に現れた柚子泥棒との遭遇で動き出す──。人生が愛おしくなる、大人たちの「成長」小説。
寺地 はるな[テラチハルナ]
著・文・その他
内容説明
隣の老婆が庭のゆずを盗む現場を押さえろと父から命じられた翼。ところが、捕らえた犯人もその目的も、まったく予想外で―(「大人は泣かないと思っていた」)。バイト先のファミリーレストランで店長を頭突きし、クビになったレモン。その直後、母が倒れたと義父から連絡が入って…(「小柳さんと小柳さん」)他、全7編。人生が愛おしくなる、魔法のような物語。
著者等紹介
寺地はるな[テラチハルナ]
1977年佐賀県生まれ。会社勤めと主婦業のかたわら小説を書き始め、2014年『ビオレタ』でポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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さてさて
667
『なにもかもうまくいく場所などどこにもない。どの場所で咲くことを選んでも、良いことと悪いことの総量は同じなのかもしれない。生まれてから死ぬまでの時間で均してみれば』。濃厚で息苦しくなるような田舎で人生を送っても、希薄で時に人恋しくなるような都会で人生を送っても、それぞれの人生の中に喜びと悲しみがある。そんな中では大人だって泣きたくなる時もある。泣いてしまう時もある。大きな事件もなく淡々とした人の暮らしを描いたこの作品。「大人は泣かないと思っていた」、何だかふっと心が温かくなるのを感じた、そんな作品でした。2021/02/23
うっちー
547
寺地さん初読み。メーターの評価通りgoodでした2018/09/05
ウッディ
542
田舎の家で頑固な父と二人で暮らす翼を中心に、庭の柚子の実を盗られるという小さな事件から繋がっていく7編の優しい連作集。バトンを繋ぐように主人公が交代しながら進んでいくストーリーで、みんな事情や悩みを抱え、傷つきながらも優しい気持ちで生きている事がわかります。翼の強さと鉄腕の優しさ、一見正反対に見える2人のキャラが印象的で派手さは無いけど、じんわり心に沁みてくるお話でした。自分も子供の頃は、大人って涙を見せず、強いもだと思ってけど、心の内は何も変わっていない、そんなタイトルも印象的でした。面白かったです。2019/01/20
kotetsupatapata
366
星★★★★★ 著者初読みです。 九州のとある地方都市を舞台に、一組の男女を通して周囲の機敏な人間模様を描いた作品。 7編それぞれ語り口を変えながらの連作短編でした。 少し時代遅れの男尊女卑な考えや、閉鎖的な地方都市の実状にげんなりするシーンもありましたが、翼とレモンのつかず離れずの関係や、友人・同僚の温かく見守る眼差しが共鳴できる爽やかな作品でした。 翼も遠くの将来に怯えて立ち止まることをせず、レモンと手を携えて幸せに生きて欲しいものです そして登場する女性達の逞しさに比べ、男衆のポンコツな事😩2021/02/02
ネギっ子gen
365
<休日に菓子をつくることは俺のいちばんの楽しみ>の時田翼32歳と、名づけのセンスが独特な親を持つ小柳レモン22歳。ふたりは、庭の柚子をめぐって真夜中に出逢う。柚子好きなわたしには、導入からワクワクの展開。<ひとりの人間の生涯におこったことのすべては、そのひと自身しか知り得ない。ひとがひとりいなくなるということは、ひとつの物語が消滅するということでもある>との文章に、深く共鳴。読後、うっすらと感涙のひとしずく。BGM:中島みゆき「永久欠番」♪100億の人々が/忘れても見捨てても/宇宙の掌の中/人は永久欠番⇒2020/08/25