出版社内容情報
絡み合うふたりの孤独な心と極限の愛
“特殊な状況"のもと、あらゆる面で正反対なふたりが、映画のストーリーについて語り合うことで深い信頼と愛を深めてゆく。読み進めるうちに明らかになるふたりの状況と無情なラストが切ない。
内容説明
ブエノスアイレスの刑務所の監房で同室になった二人、同性愛者のモリーナと革命家バレンティンは映画のストーリーについて語りあうことで夜を過ごしていた。主義主張あらゆる面で正反対の二人だったが、やがてお互いを理解しあい、それぞれが内に秘めていた孤独を分かちあうようになる。両者の心は急速に近づくが―。モリーナの言葉が読む者を濃密な空気に満ちた世界へ誘う。
著者等紹介
プイグ,マヌエル[プイグ,マヌエル][Puig,Manuel]
1932‐1990。アルゼンチンの小説家。1956年にローマへ留学し映画の制作に携わるが、天職を小説家に見出す。会話や独白、手紙など様々な文体を織り込んだ『リタ・ヘイワースの背信』の発表後、アルゼンチンに帰国。『赤い唇』などを上梓するも新政権の圧力から母国を離れ、代表作『蜘蛛女のキス』を完成させる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
かみぶくろ
109
ほとんど全編が会話で構成された実験作っぽい小説。著者が映画監督を目指していたせいもあるのか、なんとなくスタイリッシュな雰囲気あり。基本読みやすいし主人公二人が心を通わせていく展開は普通に素敵だが、とはいえやはり南米文学。読んでいると根本的に世界の感じ方が違うんじゃないかと思わせられる。ベタだけど、通奏低温は抑圧(政治的抑圧と同姓愛者への社会的抑圧)。巨大な掌で抑えつけられているようなこの息苦しさとバッドエンドは、現代日本の生きづらさとはやはり異質なものだろう。2015/08/27
NAO
70
猥褻幇助罪で8年の刑期に服しているおかまのモリーナは、同じ房に入ってきた政治活動をしていて逮捕されたバレンティンに自分が見た映画の話をする。二人の会話は、たまに食い違うものの、結構仲良さげだ。ところが、1部の最終部分になってモリーナがなぜバレンティンと一緒の監房に入っているのかということが分かると、モリーナが最初に語った黒豹女の映画の話や題名の〝 蜘蛛女〟という言葉がいかに象徴的であるかに気付かされることになる。孤独な二人の囚人の間に芽生えた、小さな親愛の情。なのに、二人の関係はあまりにも哀しく切ない。 2021/11/20
らぱん
58
ほぼ全編がダイアローグという大胆な構成が抜群の効果を発揮している。映画のあらすじを演じるように語る女と時折そこに口を挟む男。続いていく二人の会話で少しずつ明かされてくる状況に引き込まれていく。対話は革命家とゲイという強調された男性性と女性性により為され、絶妙なやり取りで生き生きとしたそれぞれの人間像が浮かぶ。舞台は文字通りの牢獄で、相反するキャラクターの両者はともに抑圧され迫害される弱者であり、同じコインの裏表なのだ。騙られるB級映画のような感傷的恋愛ドラマが訴えたいものは、人権であり自由ではないか。↓2019/09/08
えりか
46
借り本。会話だけの文。心が引き込まれた。息遣い、無言の間、言葉のそこかしこで彼らの心が痛いくらいに伝わってくる。なんて悲しく美しいのだろう。キスは破滅の予感がする。毎夜語られる映画の話。儚く悲しいそれは二人の結末を暗示しているかのようで不安にさせる。孤独すぎる二人。何もかも反対な二人。一人の人間が一人の人間を愛する。そこには思想や身分、差別などない。愛するが故の献身は搾取されることとは違う。自分が自分でないみたいに、私はあなたになった。その最高の瞬間はいつか終わる。でもだからこそ決して忘れてはいけない。2016/05/30
いちろく
45
殆どが同性愛者モリーナと革命家バレンティンの二人の会話で構成される作品。手に取る前は演劇脚本の様な作品をイメージしていたが違った。映画のストーリーに関して交わされる会話の中から、二人が置かれている境遇や状況、そして心理状況も、読み解いていく感覚の作品だった。三浦しをんさんの解説にもあったが、登場人物達にとっては会話による情報は一瞬のモノであるのに対し、文字を追う読者にはカタチとして残るモノ。全編を通して、その事を強く意識する作品だった。作品の内容は、読者が二人の会話から感じるモノ、敢えて深くは触れず。 2018/05/12