内容説明
「触ってもいい?こんな風に触ってもいい?こうしても?あたしに撫でられて、気持悪くない?よかったら、あたしに好きなことしていいわよ…」ブエノスアイレスの刑務所の中で生まれた、テロリストとホモセクシュアルの、妖しいまでに美しい愛。アルゼンチンの作家、マヌエル・ブイグの野心作。映画化では、ウィリアム・ハートが、その名演技で〈アカデミー主演男優賞〉を受賞して、世界の話題をさらったものである。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Gotoran
46
ゲイの中年モリーナと中産階級出の青年革命家バレンティンの獄中での会話主体の物語。閉鎖空間でモリーナが語る映画は、その語りの巧さから映像が浮かび上がってくる。甦るゾンビ、ナチ宣伝映画、黒豹女、等々。名作には程遠いB級映画から漂う哀しみと切なさが汲取られる。文中に挟まれたゴシック体の言葉で気付く二人の意識の流れ。体調を崩したバレンティン、献身的に介護するモリーナ、次第に接近していくお互いの感情、同性愛を超越した、余りにも刹那的で純粋な情愛が圧巻だった。マジックレアリスムとは一線を画す雰囲気。2015/04/14
*maru*
35
著者初読み。ブエノスアイレスの薄暗い牢獄を舞台に、主として政治犯のバレンティンと性犯罪で投獄されたオネエのモリーナの会話で構成された物語。黒豹女を皮切りに様々な映画のストーリーを語り聞かせるモリーナと、茶々を入れるバレンティン。映画、時々、恋や過去の話。会話文だけなので対照的な二人の声の強弱や濃淡、言葉以外の心情を想像するのが楽しかった。常に映画のヒロインに感情移入していたモリーナを想うと、悲しくも彼女(彼)らしい結末だったように思う。危険なキス。なかなかロマンチックで感動的な物語だった。2018/01/21
harass
27
印象的な題名のラテアメ小説。同名映画が公開されていた時に名前を覚えたが映画はみないまま小説もスルーしていたが手に取る。通常の小説形式ではなく、ほとんどが政治犯とオカマの二人の会話で構成されている。オカマが見た映画を政治犯に語っていく。相槌をうつ政治犯、二人の日常的なやり取り。会話のみのやり取りや調書と長い原注が読者の想像力をくすぐる。ラストは複雑な気持ちと疑いを抱きつつ悲劇として美しく終わる。予想してたよりも仕掛けがわかりやすい。あとがきにあるがほかのラテアメ作家らしくないモダンさがあるせいか。2014/09/30
ネムル
16
テロで囚えられた男は政治を、性犯罪で囚えられたホモの女(?)は愛と映画を語り、二人の言葉だけで夜の監房が描かれる。会話だけのスタイルでも見事にキャラが立っており、男の生活無能っぷりも女の甲斐甲斐しさも伝わってくる。つかず離れず微妙な距離を保ち続ける会話と悲劇的な結末は、二人の関係がどこまで接近しうるかの実験でありながらも、やはりおしどり夫婦のような微笑ましさと色艶を感じて楽しい。2013/08/31
乙郎さん
15
長いこと積んでいてようやく読み切ったが、読み終わるのはまだ先になりそう。まだ表の物語しか読み取れていないと思う。この物語には、モリーナの語る映画という複数の物語が含まれるし、時折挟まれる注釈はこの物語を記録されたものとして見つめる第三者の存在を知覚せざるを得ない。再読を要する作品だ。2009/05/02