内容説明
自分の才能を信じて夢を追うのか、それとも今このままの現実を生きていくのか―。画家になりたいという一途な想いを抱きながらも、家族の生活を支えるために、漁師という過酷な労働に従事しなければならない青年・木本。圧倒的な北海道の自然のなかで、「いかに生きるか」という青年の深い苦悩を描き切った傑作小説。著者の作品と人生を読み解く文庫オリジナルのブックガイドも収録。
目次
生れ出づる悩み
ブックガイド
年譜
文学散歩ガイド
ブックリンク
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
猫丸にゃん太
43
夢に生きるか現実的に生きるかで悩む人を描いた半自伝的小説。画家になりたいが自分の才能を信じきれない上に、貧困の為に漁師としての仕事も捨てきれない青年がいた。この青年のモデルは画家の木田金次郎であり、作者とは自分の絵を批評してもらう様な関係にあった。この本は有島武郎から彼へのエールでもある。視点は常に作者にあり、作者が心理を推測して書いている。心理描写は少ないが、自然への情景描写は驚くほど繊細である。まるで文字によって絵を書いている様なものであり、自然の一瞬一瞬に意味を与えている様でもある。2015/03/16
カブトムシ
27
ある日一封の小包が「私」の手許に届いた。木本からの三冊のスケッチ帖と手紙であった。「私」はスケッチ帖をみると会いたくなり、躊躇していた北海道行きを思いたつ。農場で会った木本はたくましく無類の完全さをみせる若者となっていた。人類の意志と取り組まねばならぬ芸術家の苦闘のなかで「私」は、木本の厳しい試練の生活とその悩みを描く。そしてかれが画家の道を歩むか漁夫の一生を過ごすか、その魂の苦悩こそ〈地球の生まんとする悩みだ〉という。「自然との闘いと調和のなかに織りなされた有島独自なヒューマニズムがある」(福田準之輔)
紅蓮
25
どこをとっても好きな作品だ。またこの先何度も読み返すのだろう。2015/03/30
優希
25
「いかに生きるか」というのは永遠のテーマなのかもしれませんね。画家志望の想いがありながら、家族の生活のために漁師という過酷な労働をしなければならない木本。彼が自分の置かれている状況に凄く悩んでいる姿にとても共感しました。自分の才能を信じて進むか、今の生活を守るか、どちらを選ぶかによって状況は変わってしまうでしょうから。夢と現実のどちらかしか選べないことは、生き方への苦悩です。著者も小説を書きたいながらも労働していたそうで、自分の姿も重ねていたのかもしれません。生きるのに自由があることは幸せなんですね。2014/03/06
ヨクト
22
「一人ひとり、ただ一度きりの生のありよう」を描いた作品。画家を目指す一人の少年に問いかける物語は、少年を通して読者に問いかける。「芸術のために生きるか、労働のために生きるか」「個人として生きるか、家のために生きるか」。そうそれは理想と現実でもあるわけだ。社会人になってから、僕も同じようなことを考えることが多々あった。そして、自分なりの結論に達した。なんてことはないけれど、それなりに頑張って働いております。2013/05/30
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