内容説明
敗戦後、元華族の母と離婚した“私”は財産を失い、伊豆の別荘へ行った。最後の貴婦人である母と、復員してきた麻薬中毒の弟・直治、無頼の作家上原、そして新しい恋に生きようとする29歳の私は、没落の途を、滅びるものなら、華麗に滅びたいと進んでいく。戦後の太宰治の代表作品。語註や著名人の「鑑賞」もついて感想文に最適。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
団塊シニア
63
繊細、敏感、自意識、死への憧憬、そして暗さのなかに明るさを、明るさのなかに暗さをみる眼を持った作品である。60年以上前の作品であるが今読んでも言葉の新鮮さを感じます。2014/06/26
ゆーじん
39
国際読書会を機に再読した。前半、伊豆の新居の失火事件辺りまでは、類稀な出来だと思う。が、徐々に散漫になり、主人公の女性のリアリティーに疑問と辟易。直治の自殺の動機を濃く書き込んだ短編であれば、どんなに秀逸な作品になったことか! 主に英語圏の外国人読者からは、登場人物の動機が良く理解できないという声がしきりだった。2015/09/06
康功
34
凋落した華族。価値観が目まぐるしく変わる現代にも通じる作品。自分のキャリアを全て投げ出して、別の部署に異動になった私は、この作品を再読し、気持ち、わかるなぁ、、と共感しました。人生には、過去の栄光を振り切り、捨て去る勇気も、必要な時があるのです。2015/11/10
momo3626
32
久しぶりの再読。冒頭の部分、なんとも気品が漂う母と私の会話とスウプを飲む母の描写の美しさに、不思議な世界にとりこまれる。没落貴族であることさえも、何か絵空事のような美しい母。最後まで、下品になりきれなかった没落貴族であることをうけいれられなかった弟の直治。道徳革命をおこすべく、不倫の子をみごもる私。 「滅びの美学」とは? 直治の遺書に、太宰自身の人生が深く投影されている。 もうすぐ、「桜桃忌」。他の作品も、もう一回読んでみよう。 2015/06/09
myunclek
29
学生時代、最も憧れ好きだった太宰治。今も色褪せず、退廃の美学を再現してくれた。太宰治論なるものを当時読んだこともあるが、もはやそんな解説は無意味以外の何物でも無い。身分社会からの没落と古い道徳に縛られた生活からの逃避を革命として闘う矛盾に苦しむ太宰自身の苦悩がほとばしる。2015/02/06