内容説明
トレントは一瞬だけその女を見て、ふり返ることはなかった。彼は不意に、その女が誰だか思いあたった…。美しい朝の光の中で、トレントがひと目で恋に落ちた相手、それは彼が捜査する事件の重要な参考人だった!金融界の大立者マンダスン殺害の謎に挑む、青年画家トレントの苦悩―。恋愛とプロットの「有機的結合」に成功し、近代ミステリーの開祖となった異色の本格古典。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ソルト佐藤
10
古典にありがちで最初の方はたるい。事件はすぐ起こってくれるのだけれども、たんたんとした調査がちょっとつらい。しかし、本領は後半から。シンプルな事件だが、いや、それゆえに、真相が二転三転するのがすごく面白い。中盤ちょっと過ぎた辺りで探偵が推理を披露して、それが外れているのが笑う(笑 恋は盲目な部分もあるけれど。しかし、実は、それがめくるめく真相の展開の始まりなのがよい。この作品からミステリ黄金期が始まるということらしいけれど、この時点から名探偵の絶対性が否定されていたのは歴史的に面白い。2019/09/01
アルパカ
8
こちらも若竹七海さんの「スクランブル」にタイトルが出てきた本。江戸川乱歩もベストテンに選んでいる、とのこと。ああ、そろそろ終わりね、というところでまさかの真相。「えっ」と思わず小さく驚いてしまいました。この夫人はマンダスンとの最初の結婚をお金に目がくらんだと認めていますが、それでいて夫が死んだらさっさとトレントと結婚し、(笑)ちょっとなんだかなあ、と思ってしまいました。最後の最後に真相がわかり面白いとは思いますが、何と言うか途中恋愛小説のようにも感じ、ミステリーとしては不完全燃焼だと思いました。2017/09/22
クロモリ
7
トレント君は乱歩十選中屈指のうっかり探偵。同じくうっかりなピーター卿みたいに愛嬌があったらなぁ…。そして、現代の日本人女性でヒロインに共感できる人はどれだけいるのでしょうか(笑)推理部分はよくできていて面白かったですし、犯人も意外でした。2012/07/30
madhatter
7
再読。真相は当時は意外だったのだろうが、今となっては斬新ではない。また、三段構成を取る作品なのだが、第二の謎解きでは、語り手の言葉を裏付ける証拠が提示されていない。第三の謎解きでも、犯人を確定する根拠は自白だけだ。謎解き重視の推理小説と言うには少々詰めが甘いかもしれない。だが、これらは推理で辿り着ける真理ではない。推理の限界は、本作以降も推理作家達によって指摘され続ける。三段構成によってトレントという探偵役の敗北を丹念に描き、これを示した点、後世に残るべくして残った作品。なお、個人的にマンダスンが哀れ。2010/10/03
来古
6
中盤がダレてしまったが、それ以外はよかった。2017/05/05