内容説明
「紙」は、西暦105年、中国・後漢の宦官・蔡倫が発明したとされる。その製紙技術は、8世紀半ばに中央アジア・サマルカンドへ至り、イベリア半島へ伝わったのは、12世紀初頭であった。思想・宗教を載せて運んだ文明の母「紙」。その圧倒的な伝播力を示した道すじ=「ペーパーロード」という新しい史観により、古代から千年余りの時をたどり、ユーラシア大陸を東西に駆ける壮大な歴史紀行。
目次
ロプ・ノールの紙
桑麻長びたり
宦官の“エネルギー”
中央アジアを舞台に
条支海上の波
タシケントにて
西域をゆるがしたもの
高句麗僧曇徴の来朝
棗木伝え刻す
匈奴の自尊心
不屈の民ソグド人
ティムールの美意識
ジブラルタル海峡をこえて
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
へくとぱすかる
33
冒頭から、紙が後漢の蔡倫による発明であることを否定するニュース。それでは蔡倫は何をして、紙の歴史に名前を残したのか。という点から、長い話が説き起こされる。紙の歴史に興味をもっている人には、十分過ぎるほどの発端だろう。多くの人物がからんだ歴史がすすむに従って、舞台は西方、シルクロードへ移っていく。著者が言うように、絹よりも安価なものなので、積極的に紙を運んでいこうという商人は少なかっただろう。製紙法の伝達には、宗教や学問への関心(つまり、書写の必要性)が不可欠だった、というのはうなずける考えである。2015/07/23
まんげきょう
3
紙はあまりにも身近なので気にもとめてなかったが、その歴史は大変深淵である。本書は、紙の他に石臼、印、民族、戦争、支配者、文字などにも触れ、興味が尽きない。次は、どれを調べてみようかと楽しみになる。2020/05/04
yurinoki
2
中華・イスラム圏を中心とした紙をめぐる歴史紀行。美しいといわれているサマルカンド紙、いつか見てみたいなあ。2021/06/10
ナウラガー_2012
2
紙の発明=105年、蔡倫が作って献上した(蔡候紙)。『後漢書』や『東観漢記』などの史書にある。しかし、1933年、前漢の紙がロプノール付近で発見された(紀元前49年、蔡候紙よりも154年前のもの)。紙の製法が西方世界に伝わったのは8世紀半ば以降のこと。カザフスタンのタラスには、751年のタラスの戦いでイスラム軍の捕虜になった唐兵の中に紙漉き職人がいたようだ。西方世界で最も古い筆写材料は”粘土板”で楔形の記号を刻みつけた。その後、エジプトのパピルスが紀元前2500年頃から使用された。現トルコ領ペルガモンのエ2010/10/10
ilma
2
★★★★ 東西の交流史を表す概念としての紙を主題に持ってきた発想が卓抜だと思います。最後に欧州への上陸の話もちょっとでてきますが、道そのものよりも中東と中国の関わり合いに著者の興味があるようです。紙と印刷が文化に与えた影響をもっと掘り下げた考察があってほしかった気もします。2012/05/18