内容説明
生と死は分けて考えることはできない。むしろ死は生以上にダイナミックな営みである。30余年、難病に苦しんできた生命科学者は、科学と宗教は対立するものではなく、同じ方向をめざしている、と考えるに至り、宇宙、進化、DNA、臓器移植など具体的な例を通じ、いのちとは、生きるとは何かを問う。老い、病、死におびえる現代人の支柱となる一冊。日本画家・福井爽人の美しい挿画22点を収録。
目次
いのちと死の感触
いのちとはなにか
死とはなにか
生命の歴史は死の歴史
人間とはなにか
病気と人間
いのちのはじまりとおわりを考える
豊かな未来に向けて
著者等紹介
柳澤桂子[ヤナギサワケイコ]
1938年生まれ。お茶の水女子大学理学部卒業。コロンビア大学大学院修了。慶應義塾大学医学部を経て三菱化成生命科学研究所主任研究員。69年、原因不明の難病を発病。退職後、病床から啓蒙の書を発信し、多くの賞を受賞。主な著書に『卵が私になるまで』(第10回講談社出版文化賞科学出版賞)、『二重らせんの私』(第44回日本エッセイスト・クラブ賞)。お茶の水女子大学名誉博士(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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やすらぎ
191
周期性嘔吐症という病名を得るまでの三十有余年、精神的孤独に耐え続けた柳澤桂子さんの永遠とは何か。実体のない「いのち」その言葉を辞書で調べてみる。生きていく原動力。最も大切なもの。生命の歴史は死の歴史。地球上に数多誕生し、今を生きる生物種は極一部である。私たちもその一員。人間は残虐性だけでなく慈悲の遺伝子も持ち合わせていると信じたいという。なぜならこれまでに、溢れるような喜びのなかに生きてきたから。著者の大好きな福井爽人さんの植物絵とともに綴られた本書は、地球上に闘いのない、平和への願いで締め括られている。2023/07/23
新地学@児童書病発動中
105
柳澤さんの本は読んだことがなかったので、病気でこれほど苦労されたとは知らなかった。原因不明の病気で長期間苦しまれて、家庭も崩壊寸前だったそうだ。この本は死ぬほど苦しみを味わった方だけが持てる優しさに満ちている。命や生命、病気、死に対する深い言葉に心を動かされた。特に死と生は切り離せないという洞察は、自分の中でよく考えてみる必要があると思った。きれいごとだけではなく、人間の残酷性にも言及がある。それでも人間は人に尽くすことを喜びとする慈悲の遺伝子を持っていると断言される姿勢に共感した。2018/06/09
金吾
26
病気で長年死と向き合いながら生きてきた人からの言葉として重いと感じたのは「生きるとは少しづつ死ぬこと」という言葉です。しっかり向き合いたいと感じます。本題ではないですが、犬のノイローゼの話は面白かったです。2024/02/07
yukioninaite
4
なぜ、私たちは死ぬのか?それは、多細胞生物だからだそうです。多細胞生物にとって、生きるとは少しずつ死ぬことだそうです。体細胞を殺し個体として消えていくことと生殖細胞を通じ遺伝情報は組み込まれて生き続けるというのも説明されれば、なるほどと思います。それから、科学と宗教は同じ方向をめざしているそうですが、長い闘病を通じて得た筆者が信じたことのようです。慈悲の遺伝子がある、という個人的経験でこの本は終わります。2016/06/09