出版社内容情報
生と死のドラマを印象的な筆致で綴り、人間の本質を問うた戦争文学界における孤高の雄、島尾敏雄の代表的な短編作品を8編収録。1975年版を復刊するにあたり新たに口絵と年譜を追加。(解説/宮内勝典)
内容説明
南海のカゲロウ島に配属された朔中尉。特攻隊長として、常に死を目の前にして過ごす彼は、島の少女トエに出会う。おとぎ話のような二人の恋。戦局が緊迫する中、遂に出撃命令が下る―(「島の果て」)。生々しく描かれる感情表現と、やわらかな筆致で綴られる情景描写との両立により決定的な存在感を放つ島尾戦争文学。趣の異なる8編を、寄せては返す波のように体感できる短編集。写真、関連年譜も収録。
著者等紹介
島尾敏雄[シマオトシオ]
1917年神奈川県生まれ。九州大学文学部卒業。終戦時、奄美で特攻隊を指揮。戦後文学での確たる地位を築く。50年『出孤島記』での第1回戦後文学賞から、80年『魚雷艇学生』での第38回野間文芸賞まで、受賞歴多数。86年逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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chimako
86
読んでも読んでも近づくことが出来ず、何度も同じ場所を行きつ戻りつしながらの読書だった。特攻挺での出撃を一年半もの間待ち続け、準備の命令は出たものの(s20.8.13)出撃命令は出ないまま終戦を迎えた島尾敏雄氏の経験を踏まえた短編8編。生き残ったから書けた作品だが、そこには死の影が濃く立ち込め、戦争が終わった後も我身の好運を享受出来ず、身の置き所の無い危うさが全編を覆う。島娘トエ(後の妻ミホ)との会瀬はそこだけ赤い色を持つ。1年半、ただ血肉を撒き散らし死ぬことだけが約束されていたのだ。酷すぎる。2017/08/25
おにく
31
作者は戦時中、弾薬を積んだボートで敵艦に特攻をかける部隊の将校として部下を率いて死ぬ運命にありながら、特攻間近で終戦となり命を長らえた経験を持つという。自決を当然の義務として、死ぬために生かされる脱力感。そのくせ神経は鋭敏になり、敵の飛行音が耳に響く。唯一の安息は、恋に落ちた村の娘との毎夜の密会。だが、その負い目により隊の中では次第に孤立してゆく。いち将校の孤独な内面をこれ程まで赤裸々に描いた作品は、これまで出逢ったことがありません。単なる戦争記録としてだけでなく物語としても引き込まれました。名作です。 2018/09/07
michel
21
★3.8。優しい筆致だが、かなり印象派な文章で、私には難しかった。特攻出撃命令を受けた朔中尉と見送るトエ。死を前にして、島の果てにある星だけが2人の行く末を知っているのか。2017/11/05
aloha0307
20
意外にも島尾さん初読みであった(死の棘 はこれから読みます。butいつになることやら)。特攻隊隊長として部下を送り、そして自らも出撃命令が下って待機中 そして終戦。この苛烈で尋常でない経験が常に彼自身の存在を脅かし怯えさせ、すんでのところで生き残った僥倖をうまく受け入れられなくさせている。まさに血が迸り散るような場面の連続で何度も息苦しさをおぼえた。平和ボケの自らを恥ずかしく思えてならない。現在の日本の平和と安定は遠い昔、戦争で犠牲になった方々の上に成立っている事を眼前に突きつけられた思いです。2017/08/26
rico
16
作者の島尾敏雄の実体験に基づくものだという。時代は太平洋戦争末期。南の島でただ待つ出撃命令を待つ日々は、後に妻となる女性との交流に彩られはするが、濃い死の影に満たされている。主人公の脳裏に繰り返し去来するのは、粗末な船で敵船に突っ込み粉々に砕け散る自らの身体だ。戦闘シーンもない、死の描写もほとんどない。しかし、死を目前にした自らの思考の執拗な描写は戦争の凄絶な実像を突きつけてくる。読むのがしんどくて、何度も途中でやめようと思ったが、何だか魂をもってかれたようで放り出せなかった。疲れました・・・。2017/12/24