出版社内容情報
山陰本線にある無人駅「鎧」。幼い時に自分たちを捨てた母がいる場所――。育ててくれた伯父の遺志を継いで仕事に奔走する妹・かおりと寂しさを紛らわす兄・夏彦。揺れる心情を鮮やかに描く長編小説。
内容説明
“鎧”という無人駅は自分たちを捨てた母がいる場所―父の死後、夏彦とかおりの兄妹は伯父の元に引き取られ成長する。二人は伯父が経営する“モス・クラブ”という会社で働き始める。兄は、ぽっかり空いた心の隙間を埋めるように寂しさを紛らわしながら暮らし、妹は心にある秘密を隠して急逝した伯父の後を継ぐために奔走する。そんな時目の前に現れたのが、国際弁護士・戸倉陸離だった。
著者等紹介
宮本輝[ミヤモトテル]
1947年3月6日兵庫県生まれ。77年『泥の河』で第13回太宰治賞を受賞しデビュー。78年『螢川』で第78回芥川龍之介賞、87年『優駿』で第21回吉川英治文学賞を受賞。2004年『約束の冬』で第54回芸術選奨文部科学大臣賞文学部門を、10年『骸骨ビルの庭』で第13回司馬遼太郎賞受賞。また同年、紫綬褒章を受章(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ろくせい@やまもとかねよし
181
毎日新聞連載が89年単行本発刊した作品。物語の題材は当時の日本国内外社会であるが、主題は今にも通じる。宮本さんはあとがきに「人間の依りどころ」が主題と記す。上巻は、人間の感情について男女の決定的な違い、青年期の不安定だが挑戦的な側面、その後に重ねる年からの安定化を、経済的貧富の格差や民主的自由化などから考察。その上で発する恋愛の精神的および肉体的欲求は愛情と称する。しかしそれは他者との時間によりそれぞれで変化し普遍性へ帰着しない。山陰の「海岸列車」を隠喩として考察し始めるか。(下巻に続く)2020/02/03
扉のこちら側
59
初読。2015年736冊め。不倫小説は苦手だし、主役のひとりであるかおりの不安定さが落ち着かない。でもこの冬の空のようなどんよりとした雰囲気は嫌いじゃない。「いや、彼女たちだけでなく、富める国に生きる者どもは、みな海岸列車に乗って、時代の毒にたぶらかされ、長いトンネルの中ではうたたねをし、海の横に出ると麻痺した目で景色を見やり、自分たちはずっと広々とした海に沿って進んでいると錯覚している。」P.4082015/07/03
ぶんこ
48
う~ん、不倫する男性の気持ちがよく書かれているとは感じました。 私は不倫小説が苦手なので、読んでいて何だかなぁの思いでいっぱいになりました。 兄も妹も倫理観や人生に対する真摯さに欠けているように思い、そのわりに他人への目線の厳しさに苦笑。 病いの妻に電話していながら、心配しているようにみえず、これで本当に同志? 一刻も早く帰国しようとせずに、かおりさんとの深い仲になる空想をしてばかりの夫って、私はいやです。 かおりさんも過去の経験から学べない人ですね。 解雇の強引さにも唖然。 世間知らずすぎる。2015/05/13
James Hayashi
30
15年版であるが、初出は88年。山陰線の鎧駅の記述から既読のような気もするが、ほとんど記憶にない。既婚者との恋や中国旅行など当時が偲ばれる。作家の力量を強く感じながら下巻へ。2018/10/21
ココ
30
物語は、退屈だけど、読み始めたら止まらない。2017/12/06