出版社内容情報
長年一緒に暮らす男の秘密を知らせる一本の電話、
中学の同窓生たちの関係を一変させたある出来事…
見てはならない「真実」に引き寄せられ、
平穏な日常から足を踏み外す男女を描く短編集。
第6回中央公論文芸賞受賞作。(解説・鹿島茂)
内容説明
一緒に暮らす純一郎さんは、やさしい人だ。出張が多くて不在がちだけれど、一人息子の太郎をよく可愛がっている。じゅうぶんに幸せな親子三人の暮らしに、ある日「川野純一郎の本当のことを教えます」と告げる女から電話が舞い込み―(「遊園地」)。行ってはならない、見てはならない「真実」に引き寄せられ、平穏な日常から足を踏み外す男女を描いた七つの物語。第6回中央公論文芸賞受賞作。
著者等紹介
井上荒野[イノウエアレノ]
1961年東京生まれ。成蹊大学文学部卒。89年「わたしのヌレエフ」で第1回フェミナ賞を受賞。2004年『潤一』で第11回島清恋愛文学賞、08年『切羽へ』で第139回直木賞、11年『そこへ行くな』で第6回中央公論文芸賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
269
そっちに行ったら傷つくってわかってても引き込まれちゃうのが人間...というような短編集。やっと物語に慣れたと思ったら次の作品、みたいな流れでなかなか入り込めず、慌ただしく読了。2017/05/10
ケイ
154
7つの短編のうち最初の「遊園地」だけに、そこへは行くなというタイトルの言葉が響きこだました。行ってしまう、言ってしまう。知りたくないことを知る恐怖も、このまま中途半端に幸せでいようとする焦燥に勝ってしまう…。それでもわたしもこの男に惚れてしまうだろう。その後の5つは、読んでいてイヤ〜な感じがした。そうさせる作者の筆。最後の「病院」はとても好きだ。ツラいが、どこか前向きにさせる父と母の言葉が、暗いところに少年を引きずりこまない。1つの光が消えていったのだとしても、クリスマスの贈り物があったように感じられた。2017/05/24
優愛
90
曖昧な終着点に流れる微かな恐怖と妖しげな感情。愛しているから追いかけてしまう。行ってはいけないと分かっていながら、知ってはいけないと分かっていながら真実というその場所へ――。本当は"このまま"で良かった。今のままで良かったのに。私達人間はどうしたってその陰に手を伸ばしてしまうんだ。裏切りは痛くて、苦しくて。だけど気づかない振りが出来なかった自分をどうか責めないで。最後を放り出された感が正直否めないですがこれが逆に良さを出しているのかなとも思えます。機会があれば長編も読んでみたいと思えた作家さんでした。2015/07/18
めろんラブ
87
タイトルからしてそそられる。”そこ”へ行ったがために、日常が暗転してしまう登場人物。成り行きなのか、運命なのか。いずれにしても、本来、安穏とした暮らしなどはどこにもなくて、私たちは霞がかった桃源郷を、思考を止めて妄信したいだけなのかもしれないと戦慄させられた。不穏さが漂うなかに、男女の機微をリアルに織り交ぜて、飽くことなく読了。ところで、タイトルの「そこへ行くな」、とは一体誰の言葉なのか。もちろん作者である井上さんのものではあるが、登場人物の顛末を握る立場の作家による、神の視点のなせる技なのかもしれない。2016/01/27
おくちゃん🌷柳緑花紅
86
タイトルがなんといっても秀逸。最初から最後まで不穏な空気、心がザワザワ。気付いていても気付かないことにしてしまおうする私の中の私。口に出してしまいたいけど、ぐっと飲み込む気持ちや言葉。見てはいけない、行ってはいけない、そこについ・・・・最後の「病院」は身近に同じように病気を抱えている友人とその家族がいるので、引き込まれつつ胸が痛んだ。井上荒野さんの作品に目が離せない。2015/07/02