内容説明
美貌の青年・敏夫は、オペラ歌手を目指す異父妹の三津子を溺愛していた。オペラ界のかつての大物歌手・歌子に取り入り、持ち逃げした財産で「幸福号」と名づけた船を手に入れた敏夫は、三津子と2人で暮らそうとするが、愛人・房子が指揮する高級品の密輸に手を染めていく。そこに、音楽への情熱を失った三津子も加わり兄妹愛は迷走する。純粋な「愛」は成立するのか。兄妹に隠された真実とは?1956年初刊の傑作長編が復活。
著者等紹介
三島由紀夫[ミシマユキオ]
1925(大正14)年、東京生まれ。中学時代より習作をはじめ、16歳の時に『花ざかりの森』を発表。47(昭和22)年、東京大学法学部を卒業後、大蔵省に勤務。翌年退職し、本格的に作家活動に入る。49年、初の書き下ろし長編『仮面の告白』を刊行し、作家としての地位を確立。主な著書に、56年『金閣寺』(読売文学賞)、65年『サド侯爵夫人』(芸術祭賞)などがある。70年11月25日、陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地にて自決。享年45(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
123
角川文庫にラインナップされた、ライト感覚な三島シリーズの1冊。本書は昭和30年6月~11月に読売新聞に連載されていたもの。こういう軽い三島作品は、彼が小説に熟達した後に余技のような感覚で書いたのだと誤解していたが、昭和30年といえば『金閣寺』が「新潮」に連載される前年だ。つまり、作家活動のごく初期から三島は純文学と並行して、このような作品を書いていたのだ。ただ、本書では、それが小説の軽やかな味わいにはならず、単なる軽さに終っているのは残念だ。三島のライトノヴェルも、やはりそれなりの修練が必要だったのか。2014/01/08
優希
44
面白かったです。異父妹の三津子を溺愛する敏夫。まさに兄弟愛の禁忌というのに引き込まれました。しかも敏夫は密輸に手を染めていくというのだからスリリングですよね。迷走する兄弟愛は成就するのでしょうか。そして兄妹には隠された秘密があるとくればもうのめり込むしかありません。ドキドキが止まらない傑作でした。2023/11/30
たぬ
20
☆4.5 輝ける未来に向けて品行方正・前途有望な僕たちは旅立つ!…的な話が展開されているという予想は見事大外れ。悪事がバレて国外へ逃亡するオチだった。20歳そこそこの三津子に嫉妬する老ソプラノ歌手・歌子や面倒ごとだらけの俗人の暮らしよりも、密輸団の一員として行動し気の合う仲間(と扱いやすい男ども)とオペラごっこをしているときのほうがずっと楽しそう。ゆめ子を追い出したのは絶対にマイナス。このおばさまかなりのやり手とみた。2023/05/11
桜もち 太郎
17
昭和30年に読売新聞に掲載された三島のエンタメ小説。兄妹愛、美しい清らかな愛、永久に終わりのない愛の物語。兄・敏夫とオペラ歌手を目指す異父妹の美津子。二人の関係は兄弟愛を超えるものに見えた。終盤に真実が明かされるが、血が繋がっていなかったという不思議な直感が、二人の間にはあったのだろう。「幸福号出帆」を手に取ったときには痛快な冒険譚と思っていたが、二人が密輸に手を染めていくものだった。しかし暗さは全くなく、やはり題名通りの物語だった。「善も悪もない自由な広い世界!」に二人が向かっていく希望の物語だった。2023/06/29
馨
16
思ってたのと少し違う感じでしたが面白かったです。三津子と敏夫が出航後幸せに暮らせたのか…いや幸せであってほしいです。2014/03/16