出版社内容情報
伊東は旅行作家イザベラの通訳ガイドとして東北へ向かう。戊辰戦争の傷跡が残る地方は貧しく……。英国人が見た開国後の日本とは。
内容説明
三浦半島の下級武士の子・伊東鶴吉は、維新後に通訳となる。父が幕末に函館へ行き生死不明のため、家族を養う身だ。20歳となり、東北から北海道へ旅する英国人作家イザベラのガイドに採用された。彼女は誰も見たことのない景色を求めて、険しき道ばかりを行きたがるが…。貧しい日本を知られたくない鶴吉とありのままを世界に伝えようとするイザベラ。対照的な二人の文明衝突旅を描く歴史小説。
著者等紹介
植松三十里[ウエマツミドリ]
静岡市出身。昭和52年、東京女子大学史学科卒業後、婦人画報社編集局入社。7年間の在米生活、建築都市デザイン事務所勤務などを経て、フリーランスのライターに。平成15年「桑港にて」で歴史文学賞受賞。平成21年「群青 日本海軍の礎を築いた男」で新田次郎文学賞受賞。同年「彫残二人」で中山義秀文学賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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しんごろ
154
イギリス人旅行作家イザベラ・バード、明治時代の通訳兼ガイドの第一人者であった伊藤鶴吉(この作品では伊藤でなく伊東)の戊辰戦争の傷痕残る東北から函館までの旅の話。学がないのでイザベラ・バードも伊藤鶴吉も知らなかった。交通の便の悪さ、田舎の貧困生活、外国人の珍しさが描写され、学ぶべきことがあり面白くもあった。そして、天使のような大胆なイザベラ、悪魔のように細心な鶴吉の対照的な二人が、野を超え山を越えていく風景が鮮明に浮かんできた。もちろん歴史小説ではあるが、しっかり旅小説でもあって、実に面白い物語だった。2025/05/09
やいっち
76
イザベラ・バードの研究書と思って手が出たのだが、「英国人作家と通訳の青年、北への旅は困難を極め……。対照的な二人が織りなす文明衝突旅を開国直後の日本を舞台に描く歴史小説。」ということで、時代小説だった。 「三浦半島の下級武士の子・伊東鶴吉は、維新後に通訳となる。」父が幕末に函館へ行き生死不明のため、父の消息を確かめるため、バードに付き随う。ということで、脇役の伊東鶴吉に(も)脚光を浴びさせたのが特色。2025/06/14
saga
52
読み始めてから『日本奥地紀行』(平凡社)を副読本がわりに同時に読んだ。伊藤鶴吉の生い立ちから、イザベラとの出会いが綴られ、北日本への旅へと入っていく。イザベラから見たイトー。鶴吉から見たイザベラ。この二つの視点が交錯し、奥地紀行に奥行きを与えている。一つの転機となった秋田県・米代川での出来事として描かれたが、本当に鶴吉はイザベラと決別しようとしたのか、興味深い。後日談として、妹ヘンリエッタの死とビショップ博士との結婚や、再来日して36歳になった鶴吉との再会にも触れているのも良かった。2025/06/13
kawa
46
西南の役直後の明治11年、イギリスの女性紀行作家のイザベラ・バードの北日本行(日光、会津、新潟、北東北、函館、日高を訪ね「日本奥地紀行」として出版)が題材。彼女と、同行の通訳・伊東鶴吉と相互の眼から過酷な冒険旅行の様子が描かれる。個人的に興味がある明治を描く小説。庶民の貧しくて悲惨な環境ながら、それにめげない実直で素朴な生活ぶりが興味深い。歴史小説に加え、当時の世情や人情、日英の文化ギャップの衝突、さらにはロード・ノベルとしても楽しめる。一粒で何粒も味わえる秀逸小説、思わぬ拾い物をした気分。2024/05/01
ふう
36
今年のベストテンに入る。明治初期の日本を舞台に、旅行作家イザベラとガイド鶴吉の異文化衝突の数々、場面を想像するとさもありなんと楽しいが、当事者の苦難は相当なもの。後から思い返せば笑い話、といえるタフさが旅を続ける力になったのだろう。アイヌコタンを訪ねて自分の中の偏見に気づき、イザベラとの旅を通して鶴吉のものの考え方が変化していくのが興味深い。2024/08/06