出版社内容情報
天明6年の皆既日蝕を背景に、底辺に暮らす男と女の残酷な姿を描いた連作時代小説。第30回柴田錬三郎賞受賞作、待望の文庫化。
内容説明
天明6年元日、皆既日蝕でこの国が闇に包まれた。その最中に無惨にも死んでいく男女。飯盛女から夜鷹となり、唐瘡に罹ってしまう千代。戯者の夢と裏腹に陰間茶屋で暮らすことになる吉弥…。天災や大飢饉にみまわれた世の底辺で、這いずるように生きて死ぬ人間の姿が克明に描かれる。救いのなさに思わず目を背けたくなるが、克明な描写の粘度が目を捉えて離さない5編。第30回柴田錬三郎賞受賞作。
著者等紹介
花村萬月[ハナムラマンゲツ]
1955年東京都生まれ。89年『ゴッド・ブレイス物語』で第2回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。98年『皆月』で第19回吉川英治文学新人賞、「ゲルマニウムの夜」で第119回芥川賞、2017年『日蝕えつきる』で第30回柴田錬三郎賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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新田新一
40
江戸の天明6年に起こった皆既日食が起こった頃に地を這いつくばるようにして生きていた人々の物語。夜鷹、陰間、浪人と言った人々が登場します。救いがなくて、胸が悪くなるような描写が続くので、人様にはまったくお勧めできない本です。怖いもの見たさと異様な迫力に引きずられて読みました。最後の「次二」が一番重たくて、江戸時代の牢獄の凄まじい拷問と飢饉の悲惨さが、心に深く食い込んできます。小説ですが、こんな風に生きてぼろ布のように死んでいった人たちは無数にいるはず。彼らの無念の思いを少しでも受け止めたいと思いました。2025/05/03
taku
14
毒を求めたなら覚悟せよ。やってくれるぜ、まんげつぅ。時は江戸時代。残酷な昔話では読み取りが足りてない。いつの世も光差す道の陰は暗く、餓鬼道、畜生道、地獄道から這い出せず藻掻き苦しむ者がいる。救われず暗闇に飲み込まれていく者を、花村萬月はきっと愛情を持って見つめている。皆既日食の空に黒い瞳となって浮かぶ月が見届けたように。汚醜がなく、血汗垢尿糞の臭いを発することもない人形の物語なんかじゃない。作者自ら真の暗黒小説と称する会心作。装画に絵金は読んで納得。2020/12/06
ウメ
5
江戸の時代、底辺に生きる人々の絶望。これ以上の絶望はないと思えた絶望のさらなる深奥をこれでもかとえぐる。もうなにも持たない彼らの命の燃え尽きる瞬間を日食の暗闇が塗り潰す。一切の光を失った漆黒だけが残る。傑作。2022/02/19
ナツメグ
5
解説の「この本を読む者は希望を一切捨てよ」に尽きる。本当に救いがない。解説者は男だからか「吉弥」がいちばんしんどかったと言ってるけど、女でもいちばんキツかった。吉弥が希望を持ってたからなのかな。あと、破壊されるシーン。「次二」の岡っ引きのシーンも夢にみそう…。時代劇の岡っ引きと随分違うけど、実際はこんなだったんだろうな、とどの話も思った。これも解説者に書かれちゃったけど、コロナ禍の中、明日は我が身と思い辛さ倍増。「長十郎」がなかったら読み切れなかったかも。2020/08/20
nori
4
何とも何とも、一片の救いも一筋の光明も無い。浮世の底辺で踠き、救われない暗闇で生きて暗闇に沈んだ其々の餓鬼道の物語。どんな者にも照らされる筈の太陽でさえ蝕つきるという、、、。理不尽な貧が、理不尽な蒙昧が纏わりつく。読むほどに眉間が狭まり口角が下がる、久しぶりに尖ったブンガクに浸った。2023/05/31