内容説明
二〇〇八年、未曾有の『蟹工船』ブームが巻き起こった。この現象は、若年貧困層らが抱く不満や、連帯への渇望を表しているのだろうか?また、巷に蔓延する閉塞感と八〇年前のプロレタリア文学の世界をつなぐバトンの在り処とは?本書は、一九七五年生まれ“ロスト・ジェネレーション”(失われた世代)のジャーナリストが、戦後の新左翼運動とその周辺を描いた文学を紹介しつつ現代の連帯を模索した、注目作である。キーワードは―「自分探し」。
目次
第1章 『蟹工船』、希望は戦争
第2章 新左翼前史 戦前~五〇年代
第3章 黎明期から六〇年安保へ 五八~六五年
第4章 頂点叛逆する全共闘 六一~六九年
第5章 自己否定解体する全共闘 六八~六九年
第6章 極北内ゲバとその果てへ 六九~七三年
第7章 自己否定から少数者の運動へ 七四年~現在
第8章 「消滅」した新左翼 七八年~現在
終章 ある意味では、新左翼の復権?
著者等紹介
鈴木英生[スズキヒデオ]
1975年、宮城県生まれ。京都大学経済学部卒。2000年、毎日新聞社入社。青森支局、仙台支局を経て、05年より学芸部。これまでの連載記事に「20年の孤独:寺山修司を記述する試み」、「描かれた沖縄」などがある。“ロスト・ジェネレーション”(失われた世代)の視点から新左翼の精神の系譜を辿った本書がデビュー作となる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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おさむ
33
若い人が新左翼を知るためのガイド本という謳い文句はその通りで、一連の歴史を知ることもできるのだが‥。ファクトと文学作品がゴチャゴチャで読みづらかった‥。著者本人がロスジェネなのだから、もっと自分に引きつけて書けば面白かっただろうに。残念です。2016/12/26
猫丸
12
東大等の全共闘はリベラル系知識人の欺瞞を衝くところまでいく。観念主導の運動だから、一気にピューリタンになろうとするんだね。けれど日大では新左翼党派に属さない普通の学生がカジュアルに運動した時期があった。このへんが現代の若者に通底すると著者は見る。自分探しとしての学生運動である。自己批判なんてテキトーでいいじゃないか。手の空いた時だけデモに行けばいい。運動の魅力は仲間と一緒にワイワイやることだったのだから、今からそんな場所を作ればいい。難しい理論は要らない。助け合い、ともにたたかう。新新左翼はこんな感じ。2024/08/04
浅香山三郎
4
著者も「あとがき」で書いてゐるやうに、入門書、ブックガイドとして読んだ。立花隆・佐藤優『ぼくらの頭脳の鍛え方』(文春新書)の佐藤氏の発言によれば、著者は、京大の同友会の副委員長だつたさうだ。しかし、1975年生まれの人だから、凄惨な新左翼の闘争を実感として知らないといふせいもあつてか、当事者等によつて書かれたモノにくらべ、新左翼の位置づけはあつさりしてゐる。 ただ、新左翼運動が高度資本主義社会の若者たちの自己否定による自分探しだつたといふ見方は面白く、若者の心性を辿つたといふ意味ではまとまつてゐると思ふ。2015/12/09
キュアレフトの本棚
3
学生運動の内在論理として若者の「自分探し」という側面を取り上げる視点は面白いし、それはあながち間違っていないとは思う。ただ肯定的であれ、否定的であれこういう1950、60年代の運動を語る時に単純な若者のモラトリアムの消費行為とみなす、学生運動のみとみなす視点にはそれに括られることのない運動を見えなくしてしまう危うさがあるのでは。2024/10/06
ndj.
3
非常にコンパクトで良い。著者とはほぼ同い年だが文面には表れていない焦燥であったり羨望であったりを共有しているような気がしなくもない。「昔は良かった」とは言わない。けれど今のほうが良いとも言わない。2012/08/06