出版社内容情報
第58回野間児童文芸賞受賞作品。
兄の朔(さく)が1年ぶりに家へと帰ってきた。朔と弟の新(あき)は、一昨年の大晦日、父親の故郷で正月を迎えるために高速バスで仙台に向かい、バスが横転する事故に巻き込まれた。朔は視力を失い、盲学校での生活を送っていたのだ。大晦日に帰省することになったのは、新が母親と衝突したことが原因だった。本来の予定より一日遅れでバスに乗ったのが、運命を変えたのだ。
中学時代、新は長距離走者として注目を浴びていたが、ランナーとしての未来を自ら閉ざし、高校に進学した後も走ることをやめた。
そんな新に、突然、朔が願いを伝える。
「伴走者になってもらいたいんだ、オレの」
激しく抵抗する新だったが、バスの事故に巻き込まれたことへの自責の念もあり、その願いを断ることはできなかった。かくして兄と弟は、1本のロープをにぎり、コースへと踏み出してゆく――。
ブラインドマラソンを舞台に、近いからこそ遠くに感じる兄弟、家族の関係を描き切った青春ストーリー。
著者は、多数のYA作品を執筆し、河合隼雄物語賞、坪田譲治文学賞など数々の受賞歴がある、いとうみく。夏の読書感想文全国コンクールの課題図書でもおなじみのいとうみくの作品群は、今を生きる若者たちの必読書といえる。満を持しての文庫化!
文庫版解説は、金原瑞人氏(翻訳家)
【目次】
感想・レビュー
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遠い日
4
家族だからこその距離の近さが災いして、逆に遠慮と蟠りを生んだりする。高速バスの事故により、中途失明者となった兄の朔。その遠因が自分にあると思い込んだ弟の新。ブラインドマラソンを通じて、新に伴走者になってもらい、走ることに挑戦することで、お互いの葛藤は深まった。朔の喪失と再生の苦悩、新の後悔。ことばのナイフで斬り合い、血の滲むメンタルが痛々しかった。一本のロープで繋がり走ることで、ようやく思い至った境地は、朔と新のゴールでありスタートだった。きっと死闘が待っている。でも、このふたりなら走っていける。2025/07/15