出版社内容情報
第171回直木賞受賞作『ツミデミック』の著者、一穂ミチの描く感動の長編小説!
「できること、やりたいこと」何もない――。大阪の一流企業の受付で契約社員として働く柳生美雨は、29歳になると同時に「退職まであと1年」のタイムリミットを迎えた。その記念すべき誕生日、雨の夜に出会ったのは売れないお笑い芸人の矢沢亨。掴みどころのない亨、その相方の弓彦、そして仲間の芸人たちとの交流を通して、退屈だった美雨の人生は、雨上がりの世界のように輝きはじめる。美雨と亨と弓彦の3人は、変てこな恋と友情を育てながら季節は巡り、やがてひとつの嵐が訪れ……。
内容説明
結婚には興味がないし、仕事も食べていける収入があれば十分。受付嬢の美雨が三十歳の契約終了を前に出会ったのは、売れないお笑い芸人の亨だった。亨や相方の弓彦、シェアハウスの芸人と過ごす中で訪れる「嵐」。周りに合わせて生きてきた美雨が見つける、初めての希望とは?掌編「夜間降下」を特別収録。
著者等紹介
一穂ミチ[イチホミチ]
2007年『雪よ林檎の香のごとく』でデビュー。『イエスかノーか半分か』などの人気シリーズを手がける。『スモールワールズ』で第43回吉川英治文学新人賞を受賞し、2022年本屋大賞第3位となる。2024年『ツミデミック』で第171回直木賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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mayu
30
うわぁ、なんというのだろうこの形容できない雰囲気感。あと1年で受付嬢の契約を切られる事に焦りも無く、先のこともあまり考えずに流されるまま生きてきた美雨がお笑い芸人の亨達と出逢って変化していく。私が美雨なら掴みどころの無い亨を絶対に恋愛として好きになってしまうな。でもこの関係性ならずっと側にいられるなぁとか、お笑い好きからすると羨ましくもあった。「何でもなく生きていくのが難しい。」という言葉が刺さったなぁ〜。亨と相方の弓彦くんとの言葉で現せない関係性の空気感が読み終えた後も色濃く残る印象的な一冊。2025/03/20
よっち
27
29歳になり「退職まであと1年」のタイムリミットを迎えた、大阪の一流企業の受付として働く柳生美雨。その記念すべき誕生日に売れないお笑い芸人と出会う物語。雨の日の誕生日に出会った掴みどころのない矢沢亨と相方の弓彦、そして仲間の芸人たちとの交流を通して変わってゆく美雨の日々。明確に定義づけできないけれど、かけがえのない大切な想いを抱き始めていたからこそ、亨の芸人としてのルーツとも言える存在との突然の再会に、誰もが心揺さぶらずにはいられませんでしたが、それぞれに向き合って乗り越える姿がとても印象的な物語でした。2025/03/14
*+:。.もも.。:+*
17
「火花」然り、若木未生先生の「ゼロワン」然り。芸人さんものは物悲しく置いて行かれる感がある。松ちゃんの素晴らしさなんて微塵もわからない私が芸人の矜持を理解できないせいなのかもだけど。夏子のネタはお笑いじゃなくて一人芝居だと思う。最後まで亨と美雨が男女の仲にならなかったのは清々しい。キズパワーパッドを貼る前に赤チン塗っちゃダメなのはどこかで突っ込まれると思ったがスルーだった。2025/05/15
ユメ
14
一穂ミチさんの作品は、これまで読んだ短編集二冊も素晴らしかったのだが、この『パラソルでパラシュート』で完全に心を掴まれてしまった。美雨と亨と弓彦、三人の関係がとても好きだ。異性間の感情も、同性間の感情も、ひとつとして軽んじられることなく丁寧に描かれている。恋も愛も友情も、名前の付けられないような気持ちも、いずれにも優劣をつけることのない一穂さんの眼差しが心地よく、何だか泣きたいような思いがした。それを象徴するような、亨の「ただのひとりとひとりとひとりですわ」という台詞がすごくすごく好きだ。2025/05/10
huraki
9
受付嬢の美雨は、とある音楽ライブをきっかけにお笑い芸人の亨やその仲間たちと出会う。周りに合わせて流されるように生きてきた彼女が見た芸人の世界。日々の生活の出来事などを笑いに昇華し、一握りの人だけが売れる厳しい業界で、それはささやかで頼りないかもしれないけれど。彼女にとって亨たちと過ごす時間はお金に変えることができない、かけがえのない生きる希望だ。2025/06/01