出版社内容情報
第166回芥川賞受賞作。
ずっと遠くに行きたかった。
今も行きたいと思っている。
自分の中の怒りの暴発を、なぜ止められないのだろう。
自衛隊を辞め、いまは自転車メッセンジャーの仕事に就いているサクマは、都内を今日もひた走る。
昼間走る街並みやそこかしこにあるであろう倉庫やオフィス、夜の生活の営み、どれもこれもが明け透けに見えているようで見えない。張りぼての向こう側に広がっているかもしれない実相に触れることはできない。(本書より)
気鋭の実力派作家、新境地の傑作。
内容説明
自転車メッセンジャーのサクマは仕事を転々としてきた。繰り返しの毎日を続ける不安と焦りから、逃げるようにペダルを漕ぐ。パートナーの妊娠をきっかけに転職活動を始めたサクマだったが、そこに税務署の役人が現れて…。圧倒的な描写力で社会への言い知れない怒りと孤独、閉塞感を捉えた、芥川賞受賞作。
著者等紹介
砂川文次[スナカワブンジ]
1990年大阪府生まれ。神奈川大学卒業。元自衛官。2016年「市街戦」で第121回文學界新人賞を受賞。2022年「ブラックボックス」(本作)で第166回芥川龍之介賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
シキモリ
23
主人公・サクマの向こう見ずで暴力的な行動に辟易するものの、彼の抱える鬱屈や虚無感、将来不安から目を逸らすための現実逃避など、否応なしに共感出来る部分もあり、彼を『自分とは程遠い存在』と思うか否かで没入度は違うはず。それまでの不穏さに比べ、ラストは些か素直過ぎる気もするが【自由=不安】と【不自由=安心】を天秤に掛けることで、自身と向き合う機会を得たのは怪我の功名と言えようか。アンコントローラブルなものに溢れた現代社会の中で、コントローラブルであろう己自身の感情の機微を注視せよ、というメッセージを感じ取った。2025/01/13
seba
22
社会生活では「ちゃんとする」ことができないと、面倒な不文律の中にあるトラップで躓いてしまう。「ちゃんとする」手段の一つとして阿りや迎合もあるが、サクマはそれもうまくできず、時に暴力により逸脱してしまう。パターン化した日々の生活を作り出しているのは自分か、社会か。どちらにせよ、日々は繰り返しだと感じていても、明日のことなんて誰にもわからない。また本のちょうど真ん中辺りで急に景色が変わり、何事かと思った(その位置で小休止を挟んだため尚更)。前半の方が興味深かったが、全体としても比較的好みの芥川賞受賞作だった。2024/07/18
mayu
22
芥川賞受賞作品の初読み作家さん。仕事を転々として今はメッセンジャーの仕事をしているサクマ。常に付き纏う将来への不安感を見ないようにして過ごす姿はとてもリアル。これはしていけないとわかってはいるけど、湧き出る衝動を抑える事ができない姿にあぁ、サクマは我慢が出来ない人間なんだな。怒りや面倒な事が我慢ができない。度合いはあれど、きっとこういう人は多いし他人事では無いなと思ってしまう。そしてサクマはとても正直なのかもしれない。自分の中の正直と社会の不一致に苦しんでいるのかもしれない。色んな事を考えた一冊だった。2024/03/06
ichi
19
☆32024/03/03
CCC
14
切迫感のある作品だった。プロレタリア文学っぽい感触もある。ただ息苦しさはあっても、プロレタリア文学のイメージにある闘争やそこからくる高揚感はなく、トーンは淡々としている。そこは好みだった。現代日本における下層部の袋小路を説得力をもって描き出している。堪忍袋の緒が切れやすい主人公に共感できるかは微妙だったが、理解不能ではなく、等身大の人間としては受け止めやすかった。欠点も多い人物像ではあるけれど、一人の戦いを強いられていなければフォロー可能だったのだろうと思った。2024/10/08
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