出版社内容情報
12世紀の中東。
聖者たちの伝記記録編纂をJ志す詩人のファリードは、伝説の聖者の教派につらなるという男を訪ねる。
男が語ったのは、アリーのという若き行者の《物語》──姿を顕さぬ導師と四人の修行者だけが住まう《山》の、
閉ざされた穹盧(きゆうろ)の中で起きた連続殺人だった!
未だかつて誰も目にしたことのない鮮麗な本格世界を展開する、第17回メフィスト賞受賞作がついに文庫化。
解説:佳多山大地
内容説明
十二世紀の中東。聖者たちの伝記録編纂を志す詩人のファリードは、伝説の聖者の教派につらなるという男を訪ねる。男が語ったのは、アリーという若き行者の“物語”―姿を顕さぬ導師と四人の修行者だけが住まう“山”の、閉ざされた穹廬の中で起きた連続殺人だった!幻のメフィスト賞受賞作がついに文庫化。
著者等紹介
古泉迦十[コイズミカジュウ]
1975年生まれ。本書で第17回メフィスト賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
W-G
304
もう刊行から二十三年も経っていたことにまず驚いた。当時はまだ京極夏彦以降というか、ペダントリーを肉付け以上のものとして物語に持ち込む手法がある意味トレンドともいえ、数が多かった分、成功例よりも失敗例、いや失敗というよりもそのまま突っ走って独自ジャンルとして邁進することになる作品や作家さんが多かった。とってつけたような人殺しやトリックと衒学パートの融合を見ないミステリもどきが多々あった中、大技トリックはなくとも端正に纏まった良作。話中話での幻の解釈がかなり安直なのは気になったが、あのオチならばすんなり許容。2023/05/25
yukaring
77
イスラム教の神秘的な世界観と本格ミステリが融合した今まで読んだことがないような独特な物語。そしてイスラム教に対する知識がなくてもスーっと頭に入ってくるリーダビリティの高さが素晴らしい。語られるのはイスラム神秘主義を極めようとする若き行者アリーが体験する不可解な連続殺人事件。導師と四人の修行者だけが住まう《山》で次々に修行者たちが殺されていく。閉ざされた《山》でいったい何が起こっているのか?アリーによる謎解きはロジカルで興味深いがそれもラストの驚きの解釈には蜃気楼のように揺らぐ。火蛾の例えも幻想的だった。2023/06/17
オフィーリア
64
イスラム神秘主義×ミステリが美しく融合した傑作。馴染みのないテーマながらも語り手の織り成す問答に自然と惹き込まれる。ミステリ部分も上手く馴染んでいてイスラム世界の宗教観を根幹に違和感なく成立させたのがお見事。蝋燭の明かりのみが灯るような幻想的な雰囲気も良き。2024/07/01
geshi
41
ミステリ史に留まらず日本文学史においても稀有な奇作の復活が嬉しい。イスラム神秘主義思想とミステリの掛け合わせなんて他の誰が考える?イスラムの宗派の流れや思想がイスラム文化圏から遠い日本の読者にも分かりやすく書かれていて、エンタメの間口は広い。読んでいるうちに酩酊感に囚われ、真実と思っていた者が分からなくなってしまう混迷へといざなわれる。ちゃんと伏線回収したミステリとしての謎解きの先に宗教的体験そのものを主題に持ってくるラスト。メフィスト賞の尖りを味わうには最適。2023/05/23
penguin-blue
31
舞台は12世紀の中東。伝説の聖者を知る男が語ったのは修行者だけが住まう山での連続殺人だった。静寂の中、蠟燭の薄明かりの中、語り手と聞き手の間だけで語られる物語。ゾロアスターとイスラム、修行や教義の話など、知識がない分興味深く読んだが、死体の発見と共に背景だと思っていたそれらの話が動機や事件の謎の鍵にも、解決への糸口にもつながっていく。解かれて終わるはずの物語はかえって大きな混沌へと…語り手の話は真実なのか、何を解き明かす物語なのか。読後もすっきりと薄闇は晴れず、何となく不可思議な引っ掛かりが残る。 2024/02/09
-
- 和書
- 和風伝統紋様素材集雅