出版社内容情報
村井 章介[ムライ ショウスケ]
著・文・その他
内容説明
「英雄」とは決して呼べない素顔をもつ若き執権・北条時宗と、そんな彼を支え将軍権力を立て直すべく大胆な改革を試みた硬骨の政治家・安達泰盛。二人が中核を担う十三世紀の日本に、ユーラシアを席巻したモンゴルの嵐が迫る―。血なまぐさい権力闘争に明け暮れる鎌倉政治史を外交、宗教、絵巻や彫刻など多様な視点から立体的に編み上げた労作!
目次
プロローグ 若君誕生
第1章 時宗誕生前後の幕府政治
第2章 北条得宗と御家人安達氏
第3章 蒙古襲来のなかで
第4章 絵にみる時宗時代
第5章 時宗と日中禅宗世界
第6章 時宗死後の政治改革
エピローグ 記憶のなかで
著者等紹介
村井章介[ムライショウスケ]
1949年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。博士(文学)。東京大学名誉教授。専門は日本中世史。主な著作に『日本中世境界史論』(角川源義賞受賞)などがある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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パトラッシュ
116
元寇時に鎌倉幕府の執権だった北条時宗は救国の英雄とされるが、実際に幕府を率いたのは義兄である安達泰盛との説を提示する。時宗は得宗家の当主ではあったが未熟な若者でしかなく、20歳も年長でベテラン政治家の泰盛が実務を担当してもおかしくない。異国警護のため御家人を動員したり、兵糧や兵士を徴発する面倒な仕事を時宗の名の下に泰盛が仕切るのは当然だった。しかし時宗死後、幕府内部の権力抗争で泰盛は敗死する。北条氏は執権であって絶対的権威を持つ将軍でなかった幕府の弱点が、元寇を契機に露呈していく状況を見事に論証している。2022/09/11
MUNEKAZ
20
北条時宗と安達泰盛を軸に、元寇前後の鎌倉政治史を描く。読みどころは、やはり泰盛の行った「弘安徳政」に関する論考。同時期に行われた亀山院の公家徳政への影響にも触れており、短いながらもその改革の意義がよくわかる。本筋とは関係ないが、本書では文庫化に合わせた増補として「大河ドラマ『北条時宗』はファンタジー」「大河ドラマあやかり本はでたらめばかり」というパンチの聞いた小文が。ちなみに原著はNHK出版から2001年刊。さすが大物研究者は忖度などしないのである。2022/07/21
nagoyan
19
優。2001年刊のNHKブックス「北条時宗と蒙古襲来」の学術文庫化。国難に立ち向かった英雄という時宗像に異議を唱える。時宗は人物像を伝えるエピソードが少なく、実像に迫りにくい。僅かな史料から立場上「国難」に立ち向かう羽目になった青年が命をすり減らしながらも真面目に向き合おうとする姿を描き出す。その「岳父」(実は妻の兄)にあたる安達泰盛は豊富なエピソードから、教養、政治的経験、公正な人柄が描き出される。幕府統治機構における「将軍」というパズルの一辺がもたらさざる得ない不安定さが二人につきまとう。2022/07/27
nishiyan
12
2001年刊『北条時宗と蒙古襲来』(NHKブックス)に付録2編、学術文庫版あとがきが収録。北条時宗自身よりも得宗家と御家人安達氏に重点が置かれている。得宗家の姻戚以上に家格を高めてきたのは歴代当主の力もあるのだが、安達泰盛の果たした役割の大きさに驚かされた。執権に就任した時宗が蒙古襲来を前にして北条家の重鎮たちを病で失い、厳しいかじ取りを迫られた中で、泰盛は主体的に動き支える。時宗の死後は画期的な政策を打ち出すも、得宗被官平頼綱との対立から霜月騒動で滅亡の憂き目に。彼の死は幕府崩壊を早めたのかもしれない。2023/04/02
白隠禅師ファン
11
泰盛は書にすぐれ文化人としても知られていたという点や、弘安徳政は亀山上皇主導によって行われたという点は興味深かったです。 あとがきで時宗は与えられてしまった使命を果たすために命をすりへらした人と書かれていて🥹の顔になった。2024/05/11