出版社内容情報
南 杏子[ミナミ キョウコ]
著・文・その他
内容説明
高齢者だけが身を寄せ合って暮らす山間の村。そこは楽園か、遺棄の地か。―夫の暴力から逃れ、幼い娘を連れて家を出た主婦・明日香。迷い込んだ山奥の村で暮らし始めた明日香は、一見平和な村に隠された大きな秘密に気付き始める。住民はどこから?村の目的は?老老介護、ヤングケアラー、介護破綻…『恍惚の人』から半世紀、認知症の「いま」に斬り込む衝撃作!現役医師作家による前代未聞のメディカル・サスペンス。
著者等紹介
南杏子[ミナミキョウコ]
1961年徳島県生まれ。日本女子大学卒。出版社勤務を経て、東海大学医学部に学士編入。卒業後、慶應義塾大学病院老年内科などで勤務したのち、スイスへ転居。スイス医療福祉互助会顧問医などを務める。帰国後、都内の高齢者向け病院に内科医として勤務するかたわら『サイレント・ブレス』で作家デビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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青乃108号
257
冒頭、夫の暴力に耐えかねて逃げ出す母と娘。わずか4ページ程で、やけにあっさり語られるが、そこはもっと詳しくページを割いて描かれないと偶然2人が辿り着いた【アルツ村】での安息が実感出来ないから、これは駄目なんじゃないかとずっと不審に思いながら読んでいたら。なるほどそういうわけだったのかと納得。予備知識なしで読んだので物語の展開が意外であり、【アルツ村】の正体に驚きながらその存在理由については非、とばかりは言っていられない程の現在の認知症問題は大変な事であり誰もが他人事だよとのほほんと過ごしている場合ではない2022/10/14
いつでも母さん
250
タイトルからはなんとなく穏やかなイメージ。帯からは認知症を題材にしてるのね…と、そんな読む前の私に「甘いわ!」と喝を入れたい。とんでもないモノを読まされた感じだった。くぅ…共生・自立・自由と尊厳、耳に優しい色んな建前の言葉が私の目の前を浮かんでは消えてゆく。介護される方とする方の家族の実情があった。苦しい。で、それだけではないこの村の真実がおぞましいのだ。アルツ村…ここには今この国が抱えている待ったなしの問題が幾つも提起されているのに、誰も真っ向から解決策を持たないように思えるこの国に背筋が凍る感じ。 2022/07/29
モルク
169
夫の暴力から逃れ明日香が娘と行き着いた先は地図にも載ってない携帯も繋がらない所だった。認知症患者だけを集めて暮らす村、そこはユートピアなのか。明日香も立ち寄り先の家の孫と誤解されそれを否定せず住むようになった。それにしてもなんだろう、この違和感。そうか、最後に来てわかる、なぜ明日香が強引にでも拒絶されなかった訳が。自分が認知症になったら、訳がわからなくなる前に、まわりに迷惑をかける前に、たとえ問題はあるにせよ、この村で自立して暮らしてもいいかなと思ってしまった。2022/05/28
kotetsupatapata
166
星★★★☆☆ サスペンスと銘打つには話の展開も比較的スローですし、ラストも結局いわゆる「夢オチ」だったりと少し弱いと感じましたが、認知症を取り巻く患者や介護者、更に世界の認知症研究の現状を描いた問題作でした。 もし仮にこのような施設が実在したら自分自身どのように感じるのか、佐々野氏のように許されざるものと糾弾する側か、林先生のように今後の研究や発展に寄与する画期的な施設だと思うのか、それぞれの正義と倫理観や道徳観が入り交じって一概にどちらが正しいとは言えない命題を問いかけられた気がします。2022/11/18
ウッディ
163
DV夫から娘を連れて逃げついた所は認知症患者たちが暮らすアルツ村だった。厳重な管理の元に隔離されたその場所は、現代の姥捨て山なのか、患者と介護家族を救うユートピアなのか?認知症介護の苦しみ、ヤングケアラーの悲惨な実態そしてアルツハイマー病の解明と治療方法の開発など、現代の社会の問題点に切り込みながらも、冒頭のカーチェイスや脱出劇、マッドサイエンティストの存在など、南さんらしくない、現実離れした舞台設定に違和感が残り、この世界に入り込めなかった。娘・リサの存在への違和感の種明かしも、驚きはなかったのが残念。2022/08/15