出版社内容情報
堀川 惠子[ホリカワ ケイコ]
著・文・その他
内容説明
日清戦争、上海事変、ガダルカナル、そして8・6―。日本の「海の戦争」を支えた輸送基地=宇品港の三人の司令官と、軍都・広島が背負った「宿命」。日本軍事史上の最重要問題に光を当てる傑作。
目次
第1章 「船舶の神」の手記
第2章 陸軍が船を持った
第3章 上陸戦に備えよ
第4章 七了口奇襲戦
第5章 国家の命運
第6章 不審火
第7章 「ナントカナル」の戦争計画
第8章 砂上の楼閣
第9章 船乗りたちの挽歌
第10章 輸送から特攻へ
第11章 爆心
著者等紹介
堀川惠子[ホリカワケイコ]
1969年広島県生まれ。ノンフィクション作品を次々と発表。『死刑の基準―「永山裁判」が遺したもの』(日本評論社)で第32回講談社ノンフィクション賞、『裁かれた命―死刑囚から届いた手紙』(講談社)で第10回新潮ドキュメント賞、『永山則夫―封印された鑑定記録』(岩波書店)で第4回いける本大賞、『教誨師』(講談社)で第1回城山三郎賞、『原爆供養塔―忘れられた遺骨の70年』(文藝春秋)で第47回大宅壮一ノンフィクション賞と第15回早稲田ジャーナリズム大賞、『戦禍に生きた演劇人たち―演出家・八田元夫と「桜隊」の悲劇』(講談社)で第23回AICT演劇評論賞、『狼の義―新犬養木堂伝』(林新氏と共著、KADOKAWA)で第23回司馬遼太郎賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
132
旧陸軍が兵站を軽視して多くの餓死者を出したことは繰り返し語られてきたが、その陸軍で兵員や物資輸送を担当した組織や人については本書が初見だ。広島の宇品に設けられた船舶司令部「暁部隊」は最重要拠点だったが、輸送を顧みない組織にあって田尻昌次、佐伯文郎ら歴代司令官が重ねた苦労が痛いほど語られる。皮肉にもロジスティクスの鬼ともいえる米軍は陸軍首脳部よりも宇品の重要性を認識しており、だからこそ原爆は広島に落とされねばならなかった。被爆した市民救援に奮闘する船舶司令部の姿は、冷遇され続けた部署の最後の意地だったのか。2021/10/31
trazom
128
堀川さんの本は、いつも本当に素晴らしい。寡作であることは、それだけ一つ一つのテーマを徹底的に調べ上げ、資料を読み込んでいる証拠である。日清戦争以来、すべての戦争において日本兵を戦地に送り出した宇品。輸送や補給の重要性を理解しない陸軍幹部と宇品で奮闘する人たちの対照が、戦争の実態を浮き彫りにする。船舶司令官として毅然として職務を全うする田尻昌次中将、佐伯文郎中将や参謀の篠原優大佐の姿が胸を打つ。信念と優しさを持つ人が報われないのは世の組織の常ではあるが、堀川さんによって、また一つ、そういう人に光が当たった。2021/10/15
アキ
108
なぜ原爆が落とされたのが広島でなければならなかったのか?重要な軍隊の乗船基地つまり広島の宇品があることが理由のひとつであった。日本は環海であり、陸軍も兵站も船舶輸送が生命線である。太平洋戦争でアメリカは開戦後直ちに輸送船への無制限作戦を発令。戦争末期には年間ほぼ390万総トンの船舶損耗に及んだ。軍部は日露戦争での成功体験が兵站を軽視することに繋がったのかもしれない。陸軍運輸部勤務の田尻昌次中将、佐伯文郎船舶輸送司令官、船舶参謀・篠原優中佐の手記から原爆までの宇品、そして原爆投下後の広島中心部を詳細に綴る。2022/09/03
どんぐり
108
広島にはかつて日本軍最大の輸送基地・宇品があった。日清戦争から日露戦争、シベリア出兵、満州事変、日中戦争、そして太平洋戦争へと、この宇品を起点に日本の兵隊たちが戦場へと送り出された。原爆が落とされたとき、それまで海洋業務に従事してきた陸軍船舶司令部が、初めて海ではなく陸での活動を行った。本書は、この広島の陸軍船舶司令官たちの人間ドラマを描いたノンフィクション作品だ。なぜヒロシマに原爆が落とされたのか、なぜ海上輸送を海軍ではなく陸軍が担ったのかの問いから始まる。→2022/03/27
夜長月🌙@5/19文学フリマQ38
80
戦争と広島を語る一冊です。丹念に掘り起こされた戦争の記録は戦争の虚しさを強調させます。特に兵站の視点からの戦争批判は目新しく思いました。広島と戦争と言えば真っ先に原爆投下が思い浮かぶと思いますが歴史上、明治27年(1894年)に戦争の中枢部、大本営は東京から広島には移りました。悲惨な中では最後の原爆後の陸軍の目覚ましい救難活動は自衛隊の災害派遣を連想させました。2022/08/23