内容説明
どこまでも伸びる一日。そして過ぎてみれば、たった一日。小説家の夫と妻は、住み慣れた家からの引っ越しを考え始めた。
著者等紹介
滝口悠生[タキグチユウショウ]
1982年、東京都生まれ。2011年、「楽器」で新潮新人賞を受賞しデビュー。2015年、『愛と人生』で野間文芸新人賞受賞。2016年、「死んでいない者」で芥川賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アキ
95
35歳の小説家であり、夫でもある滝口のなんでもない日常を書き綴る内に、妻の視点となり、大家の無口なおじさんの語りになり、第3者の視点になる。引っ越しの日や特別な日のことより、窓目くんのなんでもない一日が忘れられないように、どこまでも伸びる一日ってあるよなって思いながら読み終えた。そして過ぎてみれば、たった一日。「俺のズボンの布地みたいに、縮んで戻る長い一日」2021/11/25
なゆ
88
ああ、コレ好き。ゆた〜っと不思議と心地よい読み心地。はじめは日記かエッセイぽく始まって、だんだんあれ?誰視点?とか思ってるうちにどうやら小説に化けてたようで。滝口氏と妻の間にそろそろ引っ越ししようという話が出てからの、その家や地域への愛着、一階の大家さん夫妻とのあれこれ。そしてもう一つ軸になるのが古くからの友人たちと集まっての花見とその翌日。ちょっとしたハプニングから、各々思いを巡らしたり脱線したり。窓目くんの涙の「右目に屈辱、左目に偏屈」というのがいいなあ。あと滝口氏のスーパーオオゼキ愛が素敵!2022/01/30
chimako
86
装丁の薄黄色のように、ゆるゆると流れる時間。夫と妻を取り囲む友人や大家さんの一日が時間の流れを往き来しながら描かれる。友人の一日は髪を切ってくれた美容師さんの小さな歴史にも触れ、妻と夫が暮らす貸家の大家さんの暮らしにも触れ、友人の涙の訳や変なあだ名をもつパートナーの想いにも触れ、止めどなく、ぼんやりとくっきりと輪郭を与える。歯車定規が描く円がリンクするその中心に夫婦を据えそれぞれの生活や仕事が幅をもつ。夫が好きなスーパーオオゼキの下りが好きだった。思わず声を出して笑った。芥川賞作家の作品なのにね。2021/10/08
Vakira
65
時間はこの次元宇宙に存在する全ての物に平等に流れる。極小の例外を除けば平等に繫栄し、衰退する。平等に育み、やがて老いる。一日が長いと言う感覚。することがなくてボーと過ごしているから長いのか?それともやったことが一杯有りすぎて記憶に残る物が多いから長いと思うのか?現在の今という瞬間ではその感じ方は人夫々。しかし現在の形成は過去にある。一日のうちの過去の記憶回想が多いほど長い一日となる。この本、溝口さん夫婦と友人の単なる生活物語。人と出会い、別れも時間の中で偶然が起こす技。過去に愛着するか未来に冒険するか。2022/03/12
minami
52
最初に2017年8月16日と記載されている。だからこれは日記だと思って読み始めた。30歳半ばくらいの夫婦で、夫は小説家、妻も仕事を持っている。彼らの日常が記されていて、でもこの日にちの出来事から次々と過去にも未来にも世界が広がっていくような読み心地だった。夫の名前が滝口さんというので、エッセイかとも思う。そして彼らの高校の頃の仲間たちと今でもとても仲が良い。日記やエッセイ風のこの文章から、この人たちの人となりが浮かび上がってきて、何故だか自分の日常の延長のような気もしてきて何とも言えない温かな物語だった。2023/03/25