出版社内容情報
第一詩集で中原中也賞を受賞した注目詩人による、初めての小説集。
児童養護施設に暮らす小学5年生の集(しゅう)。園での年下の親友・ひじりとの楽しみは、近くの淀川にいる亀たちを見に行くことだった。温もりが伝わる繊細な言葉で子どもたちの日々を描いた表題作と、小説第一作「膨張」を収録。
内容説明
中原中也賞受賞の注目詩人、初めての小説集。児童養護施設に暮らす小学生・集は、年下の親友と淀川にいる亀たちを見に行くのが楽しみだった。温もりが伝わる繊細な言葉で子どもの心を描く表題作と、小説第一作「膨張」を収録。
著者等紹介
井戸川射子[イドガワイコ]
1987年生まれ。関西学院大学社会学部卒業。2018年、第一詩集『する、されるユートピア』を私家版にて発行。2019年、同詩集にて第二四回中原中也賞を受賞。『ここはとても速い川』が初の小説集となる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ちゃちゃ
103
少年のモノローグで語られる、段落(改行)の少ない独特の文体。親と離れて児童養護施設で暮らす子どもたち。彼らには暗い影のような不安が微かに張り付いている。本作は、小学生・集の日常を描く中で、置き去りにされる怯えや孤独な心を繊細に描いた作品だ。施設の仲間や先生、学校の友だち、病気の祖母もいつか自分から離れてゆく。諦めにも似た哀しみを背負い生きていくしかないのか。流れの速い川に足を掬われて、思わぬところへ流されていくことへの怖れ。願わくは母親のあたたかい胸の中へ飛び込んでゆきたいのに…。表題作のレビュー。2023/07/08
がらくたどん
69
面白かった♪なにより文体が。記憶が小分パッケージ化される前の子どもの思考とか、自分で自分の思考過程を追えなくなって完全脳内迷路を彷徨うような大人の混乱状態を散文でめっちゃリアルに伝える文体を手繰り寄せた作者に拍手。グルグル・つらつら文体(稚拙な命名で恥ずかしい。何ていうの?こういう文体)は『ミシンと金魚』の認知症者の内言で「おお♪」と思ったのだが、案外と人間の脳内プロトコルを整理しないで追ったらこんな感じが日常茶飯かも。「遠足」の作文を書くよう言われて遠足の思い出の起点と終点が分からず困ったのを思い出した2023/05/30
ネギっ子gen
66
【それぞれが連絡橋で待っているぼくに流れるポータブルの川】芥川賞作より、こちらが好み。野間文芸新人賞選考委員の絶賛を呼び、史上初の満場一致で選ばれたという表題作に、関西弁が使われてた故か。児童養護施設・大麦園で暮らす小学5年男子・集の語りが実にリアルであった。この記述、刺さった。<最初に逃げたんはあんたのお父さんやわなあ、ってばあちゃんが言っとった、俺には、それは救いやってん。もう他の、周りの人とか呪う必要ないやんと思った。元を辿れば、生まれたところからお父さんのせいやわな>。小説第一作「膨張」も収録。⇒2023/05/30
とよぽん
55
表題作は、少年たちから見た大人や自然など、身辺世界を瑞々しい感覚でとらえた短編だった。「川」が象徴的で、詩人の井戸川射子さんが散文を書いても詩的な文体だと思った。もう一篇の「膨張」では、アドレスホッパーという生き方を知った。けれども、登場人物の気持ちや行動が不可解で、置き去りにされたような感じで付いていけなかった。2023/02/23
いっち
54
主人公は大阪の児童養護施設で暮らす小学5年生。父も母も家を出て行き、近い親族は祖母しかいないが、主人公は淡々と生きているように見える。「可哀そうな私」として描かれていないので、好感が持てる。主人公は施設でのイベントを楽しんでいるようだが、見逃してはいけない言葉がある。主人公の「誰かお母さんを助けてあげられへんかったん?」や、父親に引き取られることになった主人公の友人の「父さんとおるん、しんどかった」。施設の近くに住む男子大学生の、近すぎずとも遠すぎない寄り添い方が良かった。主人公たちの良き兄のようだった。2022/06/02