内容説明
仮想通貨をネット空間で「採掘」する僕・中本哲史。深く大きなトラウマを抱えた外資系証券会社勤務の恋人・田久保紀子。小説家への夢に挫折し鬱傾向にある同僚・ニムロッドこと荷室仁。やがて僕たちは、個であることをやめ、全能になって世界に溶ける。「すべては取り換え可能であった」という答えを残して。第160回芥川賞受賞作。
著者等紹介
上田岳弘[ウエダタカヒロ]
1979年、兵庫県生まれ。早稲田大学法学部卒業。2013年、「太陽」で第45回新潮新人賞受賞。2015年、「私の恋人」で第28回三島由紀夫賞受賞。2016年、「GRANTA」誌のBest of Young Japanese Novelistsに選出。2018年、『塔と重力』で平成29年度芸術選奨新人賞を受賞。2019年、『ニムロッド』で第160回芥川龍之介賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
nemuro
57
初遭遇の作家。芥川賞受賞作を買うことは少ない(というか滅多にない)のだが、その薄さ(受賞した1作のみの収録なので当然そうなる)とよく分からないタイトルに興味惹かれて買ってみた。帯に「心地よい倦怠と虚無。言葉は精神性の仮想通貨と言えるかもしれない。全てが情報化・メタフィジカル化する新時代へ」。う~む、これでは分からない。10冊ほどと並行しながら10日間ほどを要しての読了。正直苦手なネット空間とか仮想通貨にまつわる物語ではあるが、感覚的に得られるものはあった気がする。悪くない。いずれ一気に読み直してみようか。2021/06/17
sayan
47
「バベルの塔」の換骨奪胎を試みた本書だが個人的には相性が悪く読了まで苦痛の時間が続いた。本書は読み手別に評価が分かれる。2020年末から高止まりを続ける仮想通貨を取り扱い、それに振り回される主人公を神話の中で再構築し、いかに同時代小説にするのか期待があった。しかし、どうもその試みはルーマニアのギョルゲ・ササルマンが「方形の円 偽説・都市生成論」で見せた新たな境地、読後感とは大きく異なった。ストーリー展開毎に置いてけぼり感を強く感じ、時々垣間見える哲学的な箇所に意識が向き全体感を感じるまでには至らなかった。2021/03/20
Tαkαo Sαito
39
単行本で2回読み、文庫本が出たので即買いし、3回目の読了。好みは分かれるような作品だが、自分はただただ最高に好き。読んでいて心地よくなってくる不思議な「虚無感」が味わえる。それを物足りないとは思わず、波に揺られるように物語は静かに進み、気がづくと遠くまで来ている、そんな感覚に浸れる。新しい小説のあり方を芥川賞という最高の賞をもって提示した新時代の小説。2021/02/24
Shun
36
芥川賞受賞の本作は、物語で仮想通貨を大きく取り上げているという点で時代を反映していました。確か当時はビットコインバブルとでも言うかのような暴騰や、取引所の運営会社からの資金流出など話題が尽きないテーマでした。主人公の名前がナカモトサトシであったり、新規部署で仮想通貨の発掘を担当したりと面白い要素が多く、芥川賞作品の割には娯楽性がありました。仮想通貨では分散型台帳によって通貨の信頼性が担保されることが重要で、小説では個人の存在価値を問うメタファなのかニムロッドこと荷室仁の精神性の理解に必要になるのかも。2021/03/08
シキモリ
26
スマホを傍らに<ビットコイン+採掘>のキーワードをYahoo!で検索しながら読み進めた結果、仮想通貨の広告が頻繁に表示されるようになった。情報化社会による利便性の恩恵に預かりながらも、時折薄ら寒さを感じてしまう。結果以外は価値を失うシステマチックな合理化の先に行き着く『すべては取り替え可能であった』社会は今や決して絵空事ではない。0か100かの世界において、何者かであろうと躍起になればなるほど【個としての寿命】は擦り減っていくのだろうか。黙々と【在り続ける】彼だけが健在の世界はそれを物語っている気もする。2021/02/24