出版社内容情報
庄野 潤三[ショウノ ジュンゾウ]
著・文・その他
内容説明
六十四歳の晩秋のある日、いつものように散歩に出かけようとして妻に止められ、そのまま緊急入院。突然襲った脳内出血で、作家は生死をさまよう。父の一大事に力を合わせる家族、励ましを得た文学作品、医師や同室の人々を見つめる、ゆるがぬ視線。病を経て知る生きるよろこびを明るくユーモラスに描く、著者の転換期を示す闘病記。生誕百年記念刊行。
目次
夏の重荷
杖
北風と靴
大部屋の人たち
Dデイ
作業療法室
同室の人
著者等紹介
庄野潤三[ショウノジュンゾウ]
1921・2・9~2009・9・21。小説家。大阪生まれ。大阪外国語学校在学中、チャールズ・ラムを愛読。九州帝国大学卒。1946年、島尾敏雄、三島由紀夫らと同人誌を発行。教員、会社員を経て小説家に。55年、「プールサイド小景」で芥川賞受賞。57年から1年間、米国オハイオ州ガンビアのケニオン大学で客員として過す。60年、『静物』で新潮社文学賞、66年、『夕べの雲』で読売文学賞、71年、『絵合せ』で野間文芸賞を受賞。芸術員会員。80年、ロンドン訪問。80歳以降も毎年刊行された一家の年代記的作品は、世代を超えた多数の愛読者をもつ。著書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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うた
9
天性のおしゃべり、話好き。脳溢血という、普通なら口を閉ざしてしまいそうな重いものだが、闘病のあいだまったく話足りなかったとでもいうように、筆勢がある。こんな元気な闘病記は初めて読んだ笑。同じ病で悩む人の背中を押してくれる愉快な本だろう。2021/03/06
Inzaghico
7
冒頭の「夏の重荷」は、福原麟太郎の心臓病闘病記なのだが、昔の福原家のお手伝いさんがお見舞いに来てくれた、という話から福原家の飼い猫だったタマ(猫らしい名前だ)の話になり、福原と同じ心臓病を患ったアイゼンハワーが車椅子でゴルフをしたという話になり、と話が縦横無尽に広がっていって、最後に戻ってくる、いつもの庄野らしい締め方だ。話が海をまたぐのは当たり前、だが海外の話も大所高所の話ではなく、文人のよもやま話や家族の逸話などになる。それが実にさりげなくてうまい。2021/04/17
神野 羊
0
ご自身の闘病記を中心に書かれた短編集である。昭和60年のことだそう。発病や入院のくだりは身内でないものが読んでもまさに不幸中の幸いによって九死に一生を得た感がある。 転院のエピソードを読むと、今も昔も変わらず病院や医師というものにはなんとなく度し難い部分があるんだなぁと思わされる。あとは、淡々と書かれている日々の中にはここに書かれなかった壮絶な部分もあるのだろうな…と思った時、この作家のそれらを昇華させたうえでの描写力のすごさを改めて感じた。作家って見事だ。2023/11/08