出版社内容情報
徹夜明けの仕事帰り、俺はビルの屋上から飛び降りてきた男となぜか目が合った。男はすぐに目の前のアスファルトの上でぐちゃぐちゃになった。警察の取り調べを受け、男の側頭部に3センチくらいの穴が開いていたと聞かされる。警察から解放された俺は、着替えを持ってきてくれた会社の同僚と地下カジノ「freeze」に繰り出すことにした。早速ルーレットへ。初日は負けたが俺はルーレットが気に入り、しばしばfreezeを訪れるようになる。300万円近く負けて俺は勝負に出た。そして預金のすべてを失った。会社にも行かず、俺は借金をしてルーレットに賭け続けた。ルーレット台にかじりつきホイールを凝視していると、突然影が落ちてきて数字の形になった。頭蓋骨から焔がこぼれ「26」という数字が見えた。一数字賭けに勝った。その後俺は家に戻らなくなった。カネは狩るものだと理解し、勝つことに徹底した。俺は賭けて、生きのびることができる。なぜなら、頭蓋骨のなかに「数」を飼っているからだ。あの男と目が合ってから……。
内容説明
ビルの屋上に立つ影と目が合った。その日から俺は地下カジノの常連になった。ルーレットに溺れ、賭に負けて破滅しかけた夜、突然謎めいた蒼白い焔がゆらめき、破裂して…。頭のなかに数字を飼う男が、恐るべきカネとギャンブルの暗黒を疾走する!『QJKJQ』『Ank』につながる黙示録にして幻のデビュー作。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
いたろう
75
「テスカトリポカ」で、2021年上半期の直木賞を受賞した著者の、2005年に純文学として出版された「幻の」処女作。非合法の地下カジノでルーレットにはまる主人公の現実と妄想。古代インカ帝国には、数字を予言することができるようになる病気が存在した。ただし、数字を予言し続けると、頭蓋骨に穴があく。それが残っているのが、「数の髑髏」(ナンバースカル)。今の著者なら、その話を掘り下げるのだろうが、純文学の本作では、話半分で切り上げられる。しかし、そんなところに、現在の著者の作品の原点が、垣間見られるように思われる。2022/04/07
かみぶくろ
57
3.6/5.0 群像新人賞優秀作ってことだけど、純文学からデビューしてたんですね。ギャンブルを通じて狂気に堕ちていく男を狂った感じの文体で描いてるけど、物語か純文学的個性かのどちらかに寄せた方が良かった気がした。後者に寄せると完全に中村文則になりそうだが、前者に寄せてのテスカトリポカの直木賞、とても良かったと思う。2023/10/29
sayan
55
地下カジノの常連といった文言から、気が付けば福本伸行氏の某作品に広がる「ざわ‥ざわ‥」が繰り返し脳内に響き渡る。好みが分かれる作品かと思うが、主人公が堕落していく様を魅力とする作品ではない。思弁的、という表現が適切かどうか分からない。が、躁状態にある時、自らの頭蓋骨の内側を駆け回る別生き物の動きが非常に生々しく刺激的。時々、例えばニーチェ作品から引用があるが、個人的には少し勇み足かなと。とはいえ、臨場感あふれる表現に著者の筆力を感じさせる。既読のAnkなどの布石として著者デビュー作品=本作はとても魅力的。2021/06/06
ミライ
43
「Ank : a mirroring ape」が面白かった佐藤究さんのデビュー作が文庫本化されたということで早速購入。ぶっ飛んだエンタメ小説かと思いきや、かなり純文学寄りの小説だった。ふとしたきっかけでギャンブル狂になってしまった男が主人公で、地下カジノに入り浸ることになり、しだいに破綻していく、精神崩壊していく描写は支離破滅で刺激的だった。なんとなく中村文則さんの作風に似てるなと感じた。2020/05/13
Shun
37
次回の直木賞候補作家となった佐藤究さんのデビュー作。ミステリー作品の「QJKJQ」やSF系の「Ank:a mirroring ape」等で認知し始めた作家でしたが、純文学枠である本作がデビュー作。文章は簡潔で鋭く刺さり、言葉に内包された暴力性がダークな世界観と相性良く好みの作家かもしれない。主人公は所謂ブラック職場に勤め、ある時出歩いていると飛び降り自殺の人物と目が合い人生が一変し、彼はギャンブルに溺れ始めます。狂い始めた男の思考とリンクすると、こちらまでが狂気の深淵に引きずり込まれそうになる強烈な体験。2021/06/20