出版社内容情報
プルーストが、ブルトンが、サイードが愛した、《世界》文学の先駆者ネルヴァルの傑作紀行文を読む。
内容説明
ウィーン、カイロ、シリアを経てコンスタンチノープルへ。『東方紀行』は異国への憧憬と幻想に彩られながら、オリエンタリズムの批判者サイードにさえ愛された、遊歩者ネルヴァルの面目躍如たる旅行記であった。四十代で縊死、時を経てプルースト、ブルトンらにより再評価された十九世紀ロマン派詩人の魅力をみずみずしい筆致で描く傑作評論。読売文学賞受賞。
目次
遊歩への誘い
旅人が名前を失うとき
女の都
女神の島
迷路の中へ
逆説と真理
奇想のピラミッド
レバノンの一角獣
惑乱するカリフ
夢の波
地底世界とフロイト
幻想的家系図
寛容の帝国
蕩児の帰還
夜の果てへの旅
著者等紹介
野崎歓[ノザキカン]
1959・1・21~。フランス文学者。東京大学文学部仏文科卒業。同大学院博士課程中退。東京大学文学部教授を経て、放送大学教養学部教授。2000年、ジャン=フィリップ・トゥーサン作品の翻訳によりベルギー・フランス語共同体翻訳賞、2001年、『ジャン・ルノワール 越境する映画』でサントリー学芸賞、2006年、『赤ちゃん教育』で講談社エッセイ賞、2011年、『異邦の香り―ネルヴァル『東方紀行』論』で読売文学賞(研究・翻訳賞)を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ケイ
114
ネルヴァル本人の『東方紀行』は未読。野崎氏による『ネルヴァル作東方紀行についての考察』。受ける印象は、東方のフェニミスムの神秘礼賛紀行的要素が強い。東方とは、フランスからみた東であり、ドイツ、オーストリアから始まり、トルコからシリア等の中近東まで。金髪の醸し出す美、布を纏った女性の魅惑、神を祭る祭式の神秘性。エキゾチックなエロシズム。ほぼ同時代の作家たち、バルザック、アポリネールなどとの対比にも頷くが、本質はまさにセンチメンタルジャーニー。男性の共感力があった方がこの世界に浸りやすいと思う。2019/10/22
刳森伸一
2
小ロマン主義作家ネルヴァルの旅行記『東方紀行』の評論。サイードが辛辣に批判するオリエンタリズムの最たるもののように思われる『東方紀行』が実はバランス感覚の取れた西洋批判の書でもあることを明らかにしつつ、ネルヴァルの興味と志向がどこにあったのかを追跡していくことで、『東方紀行』から豊かな世界像を抜き出していく様に掴まれた。専門的な評論でありながら、私のような素人が読んでも面白く、そしてなにより『東方紀行』が読みたくなる快著。2019/12/13
shrzr
0
ネルヴァルの頼りない魅力を描き出す。一年以上積ん読だったが、山陽本線を東に向かうのをきっかけに読み始め、ひとおもいに読了。2021/08/09