内容説明
孫への腎臓移植を望むも適さないと診断された村上和久は、兄の竜彦を頼る。しかし、移植どころか検査さえ拒絶する竜彦に疑念を抱く。目の前の男は実の兄なのか。27年前、中国残留孤児の兄が永住帰国した際、失明していた和久はその姿を視認できなかったのだ。驚愕の真相が待ち受ける江戸川乱歩賞受賞作。
著者等紹介
下村敦史[シモムラアツシ]
1981年京都府生まれ。2006年より江戸川乱歩賞に毎年応募し、2014年に本書『闇に香る嘘』で第60回江戸川乱歩賞を受賞。同作は「週刊文春ミステリーベスト10 2014年」国内部門で2位、「このミステリーがすごい!2015年版」国内編で3位と高い評価を受ける(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
549
中国残留孤児問題、視覚障害(成人後)の方の世界、母子・兄弟の愛情などなど、盛りだくさんの内容であった。構成、トリックともによく出来ていて、読メでの人気もよくわかる。ことに視覚障害の方の毎日の生活や、事件に巻き込まれた際の恐怖の描かれ方は、息をつかせぬ描写であった。ただ、なんとなく性に合わない感じがあり、ラストは(結末だけは知りたいので)駆け足になってしまったのが残念。 2019/05/10
Tetchy
523
主人公は視覚障碍者で満州から帰国した中国残留孤児。その娘もシングルマザーでその娘は腎臓を患い、定期的に透析が必要な身。そして最大の問題は腎臓移植を拒む兄が本当の兄ではないのではないかという疑惑。このようなファクターを実に巧みに物語に溶け込ませながらしかもミステリとしての謎に昇華していく手並みは新人離れして実に見事。前半は主人公同様暗闇の中を歩むが如く暗鬱としていたが、最後の真相に至ると、全てが収まるところに収まり、まさに自らの盲が開かれる思いがした。戦後日本はまだ終わりぬ。そんな感慨を抱いた作品だった。2017/05/19
三代目 びあだいまおう
438
戦争と政治に置き棄てられた悲しき犠牲者中国残留孤児、時代に翻弄された運命の過酷さと悲哀、登場人物達の哀しみと愛が、切なくもドストレートに伝わってきます。そしてとても心に染み入り、今を生きる自分を取り巻く全てに感謝したくなる素晴らしい作品です。出合わせてくれた読友さんのレビューに猛烈感謝です!盲目の主人公視点で語られる全編に散りばめられた違和感と疑心暗鬼は読み手をも闇に誘い、あたかも白杖のみを頼りに探るように同化して読み進める!全ての伏線がものの見事に回収されゆく展開に度肝を抜かれぬ読者は皆無だろう‼️🙇2019/07/27
夢追人009
384
2014年に刊行され第60回江戸川乱歩賞を受賞した下村敦史さんの感動のデビュー作ですね。私はダブルカバーの文庫本を持っていまして表紙が真っ黒の地味なデザインなのが不思議でしたが、読み始めるとすぐに合点がいきましたね。その理由は本書の主人公・村上和久が全盲者だからで全編が目の見えない人の視点で描かれた小説を私は初めて読みましたね。本書は全盲者、腎臓移植、中国残留孤児の問題の3つのテーマを扱った重厚な小説で、綿密な参考文献を基に史実を盛り込んだ社会派ミステリで抜群の意外性と人間ドラマが感動を呼ぶ傑作でしたね。2022/03/10
しんたろー
277
下村敦史さん初読み。読友さん達が熱烈に支持しているので楽しみにしていたが、期待以上の内容だった。中国残留孤児をテーマに視覚障碍者が主人公なので、タイトル通りの暗く重い内容だが、熱のこもった著者の訴えが聞こえてくるようで惹きつけられた。半分過ぎまでは頑迷な主人公に共感できずに事象だけを追って読んでいたが、謎が解き明かされてゆくと、主人公と共に気持ちも変化してゆくのが心地よかった。戦時下の哀しいドラマが目に浮かび「親子の絆」を感動を伴って考えさせてくれる終盤は、丁寧な伏線の回収も相まって、受賞も当然の良作。2018/05/11