内容説明
『死の棘』の最後の章ののち発表された八つの短篇。島尾敏雄が、執拗に描き続けてきた“夢”。何故、彼は、これほどまで“夢”にこだわったのか…。夢の中に現実の関係を投影し、人の心の微妙な揺らめきにしなやかな文学的感受性を示した、野間文芸賞受賞作家の名作短篇集。
著者等紹介
島尾敏雄[シマオトシオ]
1917・4・18~1986・11・12。小説家。横浜生れ。九州帝大東洋史科卒。1943年『幼年期』自費出版。同年海軍予備学生に志願。第一魚雷艇搭乗要員となり、訓練の後特攻指揮官となる。45年8月15日の敗戦により9月復員。46年「光耀」を創刊。48年第一創作集『単独旅行者』刊。49年「出孤島記」で第一回戦後文学賞受賞。52年東京へ移住、作家生活を開始。55年奄美名瀬市に移住。著書は他に『死の棘』(読売文学賞・日本文学大賞)『硝子障子のシルエット』(毎日出版文化賞)『魚雷艇学生』(野間文芸賞)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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- 評価
本屋のカガヤの本棚
感想・レビュー
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SAT(M)
5
筆者が見た夢を書き付けて短編としたものが二編と、日記・回想といったテイストの私小説が六編。父であったり、孫であったり、妻であったり。日常の些細な事象を並べる中で、身近な人間に対してある瞬間にふっと抱く、喜怒哀楽のどこに待てはまらない微妙な感情がリアルに描かれています。計算をし尽くして編まれたという類の作品ではないですが、「マホを辿って」のような素朴でのどかなのに何処となく不安な、えもいわれぬ空気は味わい深いです。2016/01/12
愁
2
島尾作品では病妻物や戦争物より夢物が好きで手に取りましたが、現実とのリンクの強い物やほぼエッセイな内容の短編も収録されていて少し残念でした。日記を下地にして描いた作品がほとんどでしょうから仕方ないか…とは思いつつ、更に強い他界の体験を読みたくなってしまいました。消化不良気味。2017/04/06
YY
2
「石造りの街で」にみられる妻への愛は、「死の棘」での狂気を考えると感慨深い。全体を通じて、夢は厭に死と暴力の影が強い。2012/09/23
のうみそしる
1
夢と現のあわいで繰り広げられる断片。最近百閒の冥途を読んだので結構雰囲気は近いなと思いつつ。「マホを辿って」孫娘を軸に時間、過去や未来そして虚無へと往還する。圧巻怒涛のカタコトで結ぶ最後が鮮やか。「水郷へ」と「石造りの街で」も良い。『しかしこの町での日程が早く終わりを告げ帰国の途につく日の来るのを脈搏を数えるようにして私は待った。』死、夢、時間をごちゃまぜにして、しかしそこから少し希望めいた人の営みを取り出す天才。2025/04/15
Lieu
1
内田百閒の「夢」小説に小説的技巧を非常に感じる一方、この本は、作家の手になるものだから多少の脚色はあっても、おそらくこの人はそういう夢を実際に見たのだろうな、と思う。夢は小説とは違うが、一冊ぐらい、こういう本を持っていてもよい。八割の静寂と二割の不安を感じたのだが、どんな話であったか、本を閉じてしまうとすぐに忘れてしまうのが、やっぱり小説ではなくて夢だ。2020/02/03