出版社内容情報
川上 未映子[カワカミ ミエコ]
著・文・その他
内容説明
「真夜中は、なぜこんなにもきれいなんだろうと思う」。わたしは、人と言葉を交わしたりすることにさえ自信がもてない。誰もいない部屋で校正の仕事をする、そんな日々のなかで三束さんにであった―。究極の恋愛は、心迷うすべての人にかけがえのない光を教えてくれる。
著者等紹介
川上未映子[カワカミミエコ]
1976年8月29日、大阪府生まれ。2007年、デビュー小説『わたくし率イン歯ー、または世界』(講談社文庫)が第137回芥川賞候補に。同年、第1回早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞受賞。2008年、『乳と卵』(文春文庫)で第138回芥川賞受賞。2009年、詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』(青土社)で第14回中原中也賞受賞。2010年、『ヘヴン』(講談社文庫)で平成21年度芸術選奨文部科学大臣新人賞と第20回紫式部文学賞を受賞。2013年、詩集『水瓶』(青土社)で第43回高見順賞、短編集『愛の夢とか』(講談社)で第49回谷崎潤一郎賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
風眠
461
(再読)現実は、自分が望む事と必ずしも一致しない。そうありたかった、そんな風になりたかった。そんな自分を演じて、ひととき現実の苦しさを忘れるように、冬子と三束さんは夢の中でしか実現できない、理想の自分を生きたのだと思う。恋のような、もの、のなかで。現実の自分とは違う、なりたかった自分。だから現実に帰ると余計に苦しくなる。自分に苦しくなって、現実の恋へと踏み出すことができずに。それでも夢見ることはできる。たとえ現実のなかにいても。真夜中の、つくり物の光みたいに、朝になれば消えてしまう、儚い光のような恋の夢。2016/05/28
抹茶モナカ
333
34歳のフリーの校閲者の入江冬子の不器用な恋の物語。読みやすい文体。切ない恋模様。お酒が飲みたくなる本。素敵なタイトルと裏腹に58歳の男との恋なので、驚いた。川上弘美さんの『センセイの鞄』とは、また違った年の差のある恋の話。入江冬子の不器用な感じが、切なく、何かを選びながら生きる事について、しんと考えた。2016/08/08
そる
277
大きな事は何もないのに心に浮かんだ情景の表現とか、自分の気持ちの表し方が丁寧で美しく描かれて言葉も綺麗で、静謐な印象の話。出会った男性に少しずつ惹かれていくその過程がすごくよくわかる。一歩間違えばストーカーと言われかねない想い方。また出会って友達っぽくなった女性との言い争いもよくわかる。「ただ好きなだけ」や「自分から行動しない」を理解できない人はいるもんね。「携帯電話を両手に包んで胸におき、それからまたぎゅっとにぎり、さっきの三束さんの声のぜんぶを何十回も何百回も頭のなかでくりかえしながら、目を閉じた。」2023/03/07
さてさて
237
『真夜中は、なぜこんなにもきれいなんだろうと思う。それは、きっと、真夜中には世界が半分になるからですよと、いつか三束さんが言ったことを、わたしはこの真夜中を歩きながら思いだしている』そんな風に作品冒頭を綴る川上さんの表現の美しさに魅了されるこの作品。そこには冬子の心の機微を具に見る物語が描かれていました。『校閲者』の”お仕事小説”が描かれていくこの作品。『光』という言葉が物語を象徴的に演出していくこの作品。全編に散りばめられた印象深い言葉の数々にも魅了される、とても静かで穏やかな『光』を感じる作品でした。2025/08/06
ykmmr (^_^)
222
川上未映子さん初読。その、『物語』に引き込まれるような題名に惹かれて読んでみたいと思った。そして、人生の脂が乗ってきた30代に、水筒に酒を入れて持ち歩く女性、冬子。その大胆行動とは裏腹に、内向的で不器用。建前で本当の姿を封印している自分みたいだ。引き込まれる題名を象徴する夜長の様子や、物語を彩るピアノの美しい表現と、また裏腹に、突然現れた男性ともどかしい恋をして、何だか不思議な友人と、精神の小じりを合わせていく。冬子と聖は一種の『同性愛』のニュアンスもあるのか?2022/09/10