内容説明
暗く重たい雨雲をくぐり抜け、飛行機がハンブルク空港に着陸すると、天井のスピーカーから小さな音でビートルズの『ノルウェイの森』が流れ出した。僕は一九六九年、もうすぐ二十歳になろうとする秋のできごとを思い出し、激しく混乱し、動揺していた。限りない喪失と再生を描き新境地を拓いた長編小説。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
1149
物語の終盤はかならずしもそうではないが、上巻全体は基本的には1960年代の終わりから70年代にかけての東京の大学生の日常が、ほぼそのままに描かれているというスタイルを取っている。また、『プラウド・メアリー』やクリームの『ホワイト・ルーム』といった音楽が随所に散りばめられることで、それらがあの時代の指標として機能しているのである。そして、この作品がそうした日常を、あたかも普通に語りながらも文学として飛翔するのは、ひとえに比喩表現の特異さと巧みさにあると思われる。 2012/04/24
遥かなる想い
835
37歳の僕は20歳の頃の 自分を思い出す。 何年経っても忘れられない記憶は 誰にでもあり、その記憶を 村上春樹はリリカルに描く。 二十歳の頃に抱いた将来への夢と 漠然とした不安の素はどこから きたのだろう。ワタナベ君と直子の 恋愛物語…読んでいてなぜか懐かしく 哀しいのは何故なのだろう。 危うげで脆く、不安定な若者たちの関係… 登場人物の誰もが、哀しく可笑しい… でもひたむきに生きようとしてる、 でも読んでいて心に痛い…そんな上巻 だった。 2014/05/04
紅はこべ
600
新作で沸いている時に、わざと旧作を再読。ワタナベ君は基本的に話の聞き手。語り手になることは拒む。愛する直子に聞かれても自分のことを語ろうとはしない。ワタナベに物語る語り手達、特に直子とレイコはひょっとして信用できない語り手か。たとえばレイコの病気の再発を引き起こしたとされる美少女は本当に存在したのか。まあ、直子の姉の自殺は本当だろうけど。緑もお父さんのことで平気で嘘をついたしね。2017/03/04
zero1
517
私がこの作品を初めて読んだ際、「今までにない小説」に驚いた。生と死を描く恋愛小説。この作品については多くの書評があるので、変わったことを書きたい。登場人物のうち何人死ぬかについては前もって決めていたと村上は語っていた。井戸が出てくるのは「ねじまき鳥」を連想させる。短編「螢」との関係はよく知られている。寮のモデルは目白の和敬塾。創設者は前川喜作。元文科省事務次官の前川喜平氏の祖父。蛍については将棋の名人戦などで知られる椿山荘がベース。直子がいた亜美寮は美山荘のことだと推測される。 というわけで下巻に続く。2018/11/06
ehirano1
488
読んでいて「死」がいつも身近にあるように感じます。また、エロティックな状況も露骨なのですが、これは「死」に対する「生」を対比させているのではないかと思いました。2024/08/16